Last update:2021,Feb,13

18世紀欧州戦乱

文学篇 ペストの記憶

small5
「「18世紀欧州戦乱」の文学篇へようこそだぜ!ここでは、『ロビンソン・クルーソー』で有名なダニエル・デフォーが1722年に刊行した『ペストの記憶』について紹介していくぜ!」
名もなきOL
「新型コロナウィルスで混乱している現代社会にピッタリの題材ですね。」
small5
「歴史でもよく取り上げられる『ロビンソン・クルーソー』に比べると、この本はだいぶマイナーな部類に入るだろうな。日本語訳の数も少ない。それと、もう一つ困ったことは「日本語訳のタイトルを何にするか?」っていう話だ。『ロビンソン・クルーソー』は、これがそのまま日本語での書名として根付いているから困らないのだが、『ペストの記憶』については決まった日本語訳がない。さらに困ったことに、フランスのノーベル文学賞受賞作家のアルベール・カミュが書いた『ペスト』がほぼ同じ名前だから、混同しやすい。これまた困ったもんだぜ。」
名もなきOL
「決まった訳語がない&同じ名前の有名な本がある、っていうのもなかなか無い例ですよね。」
small5
「まったくそうなんだぜ。そこで、ここでは武田正明氏が訳した『ペストの記憶』という題名で統一することにしたぜ。原題は"A journal of the pague year"(直訳すると「ペストの年の日誌」)なので、武田氏の訳が一番原題に近いかんじがするぜ。だから、ここでは『ペストの記憶』で統一して記載するぜ。」

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新訳ペスト 訳:中山宥 2020年10月1日 初版第1刷発行 興陽館 412ページ
small5のオススメ
たぶん、日本語訳された『ペストの記憶』で最新の本がこれ。2020年の新型コロナウィルス蔓延の中で、新たに日本語訳された本だ。現代日本人が読みやすく理解しやすい訳語を使っているので、すらすら読める。ただ、平井訳の本などと見比べると、明らかに省略されている箇所もあるが、原作の内容を大きく損ねることになはなっていないと思うぜ。
読者の理解を助けるためのロンドン市街地地図付きだ。


あらすじ

small5
「舞台は1665年から1666年にかけてのイギリス、ロンドンだ。ロンドンで馬具屋を営んでいるH.Fという人物が、自らの経験や見聞きした、ペストがもたらした災い、それからその中で生きた人々の様子を描いている。これが、コロナで苦しむ現代の姿と重ねられて、最近になって注目されているんだぜ。」
名もなきOL
「small5さん、いつもは時事ネタはそんなに絡めないのに、今回は珍しくタイムリーな話をするんですね。」
small5
「そうだな、現代だってやがて歴史になるからな。というのも、デフォーと言えばロビンソン・クルーソー、という話で終わることが多いんだ。俺自身、デフォーの作品はロビンソン・クルーソーしか読んでいなかった。デフォーの他の作品まで扱うのは、専門で調べてる人くらいのもんだったんだぜ。ところが、このコロナ禍の影響で、にわかに脚光を浴びはじめたのがこの作品なんだ。」
名もなきOL
文学の流行り廃りも、時代を反映しているんですね。」
small5
「さて、それでは、まずはあらすじから入っていくぜ。
最初は、外国のオランダでペストがはやり始めているらしい、という噂を主人公が耳にするところから始まる。当時、ペストは恐ろしい死病だった。ペストにかかったら、まず助からない。待っているのは死だったんだ。」
名もなきOL
「ペストの症状って、どんなのなんですか?」
small5
「リンパ節がテニスボールくらいの大きさくらいまでボコンと腫れ上がるんだ。さらに、高い熱が発生し倦怠感や激しい頭痛なども併発する。特徴的なのは、皮下出血した部分が黒ずんで見えるので、日本語では「黒死病」というあだ名がついている。早く治療しないと死に至るんだ。さらに、他には、このような症状が出ない敗血症性ペストと呼ばれる症状は、突然倒れて死亡する。」
名もなきOL
「突然死ぬって・・・恐ろしいですね。。」
small5
「あぁ、怖いんだぜ。これらの死体は黒ずんでいくから、それがまた更なる恐怖感を呼ぶんだ。また、肺ペストという症状がある。これは、ペスト菌が肺に入り込んだものなんだが、一番危険だ。肺ペストにかかった患者の咳や痰にはペスト菌が含まれており、人がこれを吸うと2日以内に肺ペストが発症し、そのまま死に至るんだ。現代でも、治療が間に合わなかったら手遅れなんだぜ。」
名もなきOL
「知らなかった。。ペストって、そんなに怖い伝染病なんですね。」
small5
「医学が発達した現代でも恐ろしい病気なんだ。当時は、人間に見えないほど小さい「細菌」の存在は知られていないから、ペストがなぜ発生するかもわからなかったんだ。人々は目に見えない恐怖に怯えたんだぜ。まさに、死神だな。
さて、話を戻そう。1664年、そんな恐ろしいペストがオランダではやり始めた、という話を聞いて人々は不安に感じるんだが、時間が経つとそれも忘れてしまう。ところが、しばらく時が経過してから、ロンドンの西部でもペストで死んだ人が出た、という知らせが、教会が出す各教区の死亡週報に出たところで、再び恐怖にかられるんだ。ところが、最初の死者が報告されてからは、ペストによる死者というのはしばらく報告されなくなるんだ。それで、安心したところ、今度はペストが発生した教区の死亡者数が、普段の水準よりどんどん大きくなっていく、という現象が起きる。」
名もなきOL
「それってもしかして、ペストで死んだのを隠蔽しているのでは・・?他の病気ということにして。」
small5
「筆者も、後になって「おそらくペストで死んだことは隠されたのだろう」と予測している。理由は、近所づきあいを避けられるといった風評被害を避けるため、だな。実際どうだったのかを調べることはできないが、おそらく隠されていたんだろうな、と俺も思う。年が明けて1665年6月になり、暑い時季になってくると、死亡週報が伝えるロンドン西部の死者が大幅に増加した。ある週は死者120人でそのうちペストの死者は68人となっていたが、その地区の平均的な死者数から考えると、実際のペストの死者は100人くらいだったのではないか、と死亡週報に隠された数値を考えている。これは、コロナに苦しむ現代にも共通するところだよな。」
名もなきOL
「そうですね。公式発表されているコロナ感染者の数よりも、実際の感染者は多いだろう、とは思いますよね。コロナに罹ったら大変な目にあう、って心配だから、検査しない人もいるでしょうし・・・現代に通じるものがありますね。」
small5
「そんな中、ペスト発生地域の住人のうち、ロンドン以外にあてがある裕福な人々やその使用人たちは、次々とロンドンを脱出していった。ロンドン西部で発生したペストは、だんだんと筆者が住む東部にも感染しはじめ、筆者も脱出すべきか否かでおおいに迷うんだ。筆者は独身だったが馬具屋を経営しており、使用人もいた。店じまいして、誰かに後の管理を任せる、という選択肢もあったんだが、その場合、留守の間に強盗やらなんやらのせいで店のすべてを失うかもしれない、というリスクがあった。店が心配だからといって、ロンドンに残留したら自分がペストに感染して死ぬかもしれない。ものすごく迷うんだ。」
名もなきOL
「それは迷いますよね。でも、あたしだったら逃げるかな。命あってなんぼ、ですよ。」
small5
「俺もそうするだろうな。だが、筆者は違った。ここで、『ロビンソン・クルーソー』と同じく、キリスト教の聖書が重要な役割を果たすんだ。筆者は、何度かロンドン脱出を試みたのだが、毎回なにかしらハプニングが起きて失敗してしまうんだ。筆者はそれを「ロンドンに残るべき、という神の啓示」かもしれない、と考えるんだ。キリスト教では、神は人間の運命を決めることができるからな。迷いに迷った筆者は、聖書を読んだ。たまたま目にした聖書の詩編第91編は「自分の家にいれば、あなたに疫病はやってこない」という内容だったので、それでロンドン残留を決意したんだ。」
名もなきOL
「聖書を読んで人生の選択肢を決めるって、日本人にはあまりない発想ですよね。」
small5
「そういう姿勢が、人は信仰によってのみ救われる、というルターの説を基にしたプロテスタントの理想的な姿なんだろうな。
さて、かくしてロンドン残留を決めた筆者が、見聞きした記録が始まるんだ。まず、感染初期に目立ったのは、占い師や偽預言者、偽医者だった。占い師や偽預言者は、これから神の天罰が下り、ペストが広がってロンドンは死の街になるだろう、と客の不安を煽った。中には、雲が剣を振りかざす天使となり、その刃がロンドンに向けられているとか、幽霊が教会の墓地に現れたとかいう話が、真実として広まったりした。偽医者らは、ペストにおびえる人々に効きもしない独自開発の予防薬や治療薬を売りつけたり、していたそうだ。」
名もなきOL
「いつの時代にも、そういう商売をして荒稼ぎする人はいるんですね。」
small5
「そうだな。これは、人間社会に古今東西見られる一般法則だと思うぜ。そして、実際にペストに罹る人が増え始めると、死亡週報の数字もうなぎ登りに増えていった。そこで、ロンドン市長らはいくつもの対策を講じるのだが、特徴的なのは「家屋封鎖」だった。」
名もなきOL
「「家屋封鎖」って・・もしかして、ペストに罹った人は、その家に閉じ込めちゃうっていうことですか?」
small5
「そのとおりだ。ペスト患者の家を物理的に封鎖して、感染拡大を防ごうとしたんだ。家屋封鎖された家は、入り口に赤いひも目印をつけられ、カギをかけられる。家の住人は、一切外出することはできない。家の外にいる監視人に、24時間体制で監視されるんだ。」
名もなきOL
「それってヒドくないですか?家族の1人でもペストに感染したら、その家の人たち全員に感染してしまうじゃないですか!たしかに、その家以外には広まらないかもしれないですが、かなり問題の多い対策だと思います。」
small5
「俺もそう思うぜ。実際、封鎖された家屋の住人のうち、まだ感染していない者たちは、あの手この手で脱出を図ったんだ。監視人に暴力をふるって、強攻突破した家もあるらしい。もちろん、ペストに感染した人は、家族に移さないために個室に籠りっきりになる、という対策をとる人もいたのだが、それは少数派だったようだな。
「家屋封鎖」は、物理的に隔離する、という意味では有効な方法だとは思うが、徹底できなかったので、ほとんど効果が無かっただろう、と筆者も記載している。しかしその一方で、ロンドン市長をはじめとした当局は、なんとかして感染拡大を防ぎ、困窮者にはできうる限りの支援を行ったことは、筆者も忘れてはならない功績としている。だが、ペストの勢いは少しも衰えなかった。死亡週報は、8月の第2週から10月の第1週の約2か月間で、約5万人がペストで命を落とした、と伝えていた。」
名もなきOL
「2か月で5万人病死って・・・悲惨すぎます。」
small5
「ここまで死者が増えると、死体の片づけや丁寧な埋葬も追いつかなくなってきた。毎晩、馬車の荷台いっぱいに死者を積んだ荷馬車が、教会と街を往復し遺体を運んだ。人がほとんどいなくなった通りがいくつも出てきた。本当に、ロンドンは死の街になった、という痛々しい様子が描写されている。筆者は、死亡週報の数字は実態を拾い切れていないのではないか、と考えているし、そうなっても仕方のないほどの惨状であった、と記している。」
名もなきOL
「今のコロナも怖いですけど、死をふりまくペストの方がはるかに怖いですね。」
small5
「現代では、ペストはペスト菌という細菌が引き起こす病だということがわかっている。だから、手遅れにならないうちに抗生物質を投与して治療すれば、治る病気なんだ。それでも、手遅れになったら死が待っているわけなので、怖いことに変わりはなないがな。
ちなみに、ペスト菌が発見されたのは1894年のことなんだ。この時代から約200年後だぜ。香港でペストが流行した時に、フランスのイェルサンという医師と日本の北里柴三郎が、それぞれ別に発見しているんだぜ。」
名もなきOL
「北里柴三郎って、ペスト菌を発見したんですね。やっぱり、凄い人だったんだですね。」
small5
「北里柴三郎の功績は、血清療法の発見など他にもあるんだが、その話はまた別の機会だな。
そんなわけで、当時のロンドンでは、ペストの原因は何なのかということも知られておらず、十分な知識が無い状態だったわけだ。目に見えない、原因不明の死病に対する恐怖感は、並大抵のものではなかったと思うぜ。」
名もなきOL
「その後、ペストはどうなったんですか?」
small5
「1665年の10月頃から、死者の数が減り始めたんだ。筆者の友人である医師の話によると、ピーク時はペスト患者は5人に1人も助からなかったが、この頃になると5人に2人は快復する、という状況になりはじめたそうだ。これを「病毒が弱くなってきた」と表現している。そして、それは死亡週報の数にも明確に表れ始めた。だんだん、死者の数が減り始めたんだ。ペストが沈静する方向に向かっていることがわかると、これまで悲嘆に暮れていたロンドン市民の顔に、笑顔が見え始めた。これまで、感染を恐れて会話を避けていた人々が、ペストから解放されたかのように会話を交わし、以前のような賑わいを見せるようになり、感染予防措置もとらなくなってきたんだ。」
名もなきOL
「よかった!それは嬉しいですよね。でも、感染予防をしなくなるのはまだ早いような・・」
small5
「実際、そうなった。人々が感染予防しなくなると、再び死者は増え始めた。そこで人々は気を引き締めなおす。だが、今回は違った。希望の光が見えてきたからな。そして1666年の2月頃、ペストはほぼ沈静化してこの本は終幕だ。死者は約10万人ほどだった、と述べられている。これは、当時のロンドンの人口が約50万人だったので、総人口の約2割がペストで亡くなるという大惨事だったわけだ。」


筆者である馬具屋のH.Fって誰?


small5
「『ペストの記憶』は、ロンドン東部在住で馬具屋を営むH.Fという人物の見聞録、という体を取っている。もちろん、作者はダニエル・デフォーなんだが、このH.Fは誰なんだろうか?という話だぜ。」
名もなきOL
「誰なんですか?」
small5
「H.Fは、デフォーの伯父であるヘンリー・フォーではないか?というのが大方の予想だ。というのも、筆者のデフォーは1665年の時点で5歳の少年だ。ペストで苦しむ人々や街を見た記憶はある程度残っているだろうが、それだけではこの本は書けない。おそらく、ヘンリ・フォーや父親が書いた日記や記録のようなものを基礎にして書いたのではないか、というのが大方の予想だ。最後に、わざわざH.Fのイニシャルを記載したのは、筆者であるデフォーが、伯父への敬意を示したのではないか、と思うぜ。」
名もなきOL
「ロビンソン・クルーソーとは、またちょっと違う趣で作られたんですね。でもそうなると、この本の内容ってどこまで本当なんでしょうか?」
small5
「俺は、半分以上は何かしらの記録に基づいているのだと考えている。まったくのデタラメや筆者による作り話は、ごく一部ではないか、と思うぜ。それくらい、描かれている人々の姿はリアルだし、情景描写も鬼気迫るものがある。まぁ、記載されているエピソードの真偽判定は他の方に譲りたいと思うぜ。
ただ、考えなければならないポイントは、この本が出たタイミングだな。この本が刊行されたのは1722年なんだが、この少し前の1720年、フランス南部のマルセイユで、ロンドンの時のようにペストが流行して多くの人が亡くなったんだ。」
名もなきOL
「そうなんですね!そうなると、ロンドン市民の多くは震え上がったんでしょうね。」
small5
「たぶんな。だが、1720年ということは、1665年のロンドンペスト流行からは55年も経過していることになる。筆者のデフォーも、経験者とはいえ5歳だ。当時を鮮明に覚えているロンドン市民は少なかっただろう。デフォーはロンドン市民に対する警鐘として、この本を出したのではないか、と考えられるぜ。実際、ペスト流行時に仕事がなくなってしまいそうな職業を示して、非常時の対策を怠らないことを奨励しているんだ。これは、純粋にデフォーの良心だと思うぜ。もちろん、ビジネスチャンスである、という狙いもあっただろうな。」


災害時における人間描写


small5
「『ペストの記憶』が描いているのは、ペスト流行という地獄のような状態で生きた一般の人々だ。英雄や学者といった、一般の人とは違う偉人ではないところがポイントだと思うぜ。そういう意味では、群像劇という印象だ。ペストのような疫病は、誰の身にでも降りかかりうる災厄だ。災厄に襲われた時、人はどう考えてどう行動するのか?この人間模様の描写がとても優秀だと思うぜ。ちなみに、OLさんは地震への備えはしているか?」
名もなきOL
「え!?そんな突然聞かれても・・。とりあえず、棚にカップラーメンが3個入ってはいますね。でも、それくらいかな。」
small5
「地震は日本に多い災害だ。1995年1月17日の阪神淡路大震災や、2012年3月11日の東日本大震災など、最近でも大規模な地震が発生して大きな被害を出した。ハザードマップを見て、洪水や津波、それから火事の時の避難場所や対応策はできているか?」
名もなきOL
「・・すみません、できてません。。」
small5
「そうだよな。それが、普通の人の姿だと思うぜ。勘違いしないでくれ、別にOLさんがダメだと言っているんじゃないんだ。むしろ、OLさんの方が普通の人間の感覚なんだと思う。デフォーが描いている人も、OLさんみたいな普通の人なんだ。デフォーは、そういった普通の人々の生き死にをまざまざと描くことで、時代が変わっても変わらない、人間の疫病に対する備えのあまさ、もう少し広げると、非常事態への準備のあまさを明確にしたかったんじゃないか、と思う。そしてそれは、聖書の時代からほとんど変わらない一般的な人間の特徴として、とらえられているんだ。
ただ、デフォーの場合は個人のプロテスタント信仰が強いので、優れていて見習うべき人物は敬虔なプロテスタント、あるいはキリスト教徒。そうでないダメな人間は、敬虔さが足りず神への感謝を忘れた不届き者、という区分がされている。俺はこれには反対だが、それを読むのも古典小説を読む楽しみの一つ、だと思っているぜ。」
名もなきOL
「そういえば、カミュっていう人が書いた『ペスト』もあるんですよね?」
small5
「ああ、こっちで紹介しているぜ。カミュのペストは第二次世界大戦が終結して間もない1947年に刊行された小説で、こちらは「不条理文学」の代表だな。ドキュメンタリーのようなデフォーの『ペストの記憶』とは異なり、主要登場事物が「ペスト」という厄災の中でどのように生きたのか、に重点が置かれているぜ。あと、文章はやや難しめだな。読みやすさ、という点ではデフォーの『ペストの記憶』の方がだいぶ上であることは間違いないぜ。」

新型コロナはいつ終息する?


small5
「これは時事ネタだが、注目度は高いので大胆に予想してみるぜ。ただ、俺は医者でもなければ看護師でもない、歴史好きな文系人間だからな。外れても責任は取れないぜ。」
名もなきOL
「歴史好きな文系人間のsmall5さんは、どう予想するんですか?」
small5
「ズバリ、ワクチンの接種が完了した後に来るピークがおそらく最後になる。そのピークを最後に、終息に向かうだろう、と予想するぜ。」
名もなきOL
「ズバリ、そう考える根拠は?」
small5
「ペストは流行して終息して、をこれまでけっこうな回数繰り返してきた。なので、新型コロナも同様だろう、という経験則が一つ。次に『ペストの記憶』に記されている、ペスト沈静化のきっかけの部分だぜ。H.Fの友人である医師の話で「以前は5人に1人も助からなかったが、最近は5人に2人は快復するようになった。」というセリフがある。」なぜこうなったんだと思う?」
名もなきOL
「病毒が弱くなったから、って書いてるんですよね?」
small5
「デフォーはそう書いているが、これを現代医学知識に基づいて考えてみると「人々がペストに対して強くなった、つまり免疫を獲得しはじめたから」ではないか、と考えられる。実際、ペスト感染者が爆発的に増加することで、周囲の人がペスト菌にさらされる頻度は増えるだろう。ペスト菌にさらされたら、ペストを発症して亡くなる人もいるが、微量のペスト菌にさらされた人は、発症せずに体内の免疫システムでペスト菌を撃退しているのではないだろうか。そういう人は、ペスト菌に対する免疫を獲得することになる。そういった状態が長く続けば、少しずつペスト菌免疫を持つ人々が増え、その人々は発症しても回復したりするだろう。つまり、集団が免疫を獲得したことがペスト終息の原因ではないか、ということだ。
2021年1月現在、欧米や中国で自国産のワクチンを自国民に接種させるプロジェクトが進行している。おそらく、多くの人がワクチン接種によって、新型コロナに対する免疫を獲得するだろう。もちろん、接種しても免疫獲得できなかったり、免疫獲得しても感染して発症する人も出てくるだろう。だが、全体的に見れば、免疫獲得者の数はどんどん増えていくはずだ。これで、新型コロナも終息に向かうだろう、と予測するぜ。」
名もなきOL
「なるほど〜。接種完了の後にピークが来る、と予測するのはどうしてですか?」
small5
「これは大胆な予想なんだが、おそらく接種が完了した国では、警戒心が一斉に緩む。『ペストの記憶』にあるようにな。その時、感染者がまた増えるだろう。そして「コロナはまだ終息していない、油断するな」と呼びかけがあるはずだ。人々は再び警戒するようになるが、今度は免疫を獲得している人が大多数になっている。感染してもほとんど発症しないので、新型コロナウィルスの数はどんどん減っていくはずだ。それに伴って感染者数も減り、やがて終息に向かうだろう、と考えたんだぜ。」
名もなきOL
「なるほど。歴史は己自身を繰り返す、ってわけですね。」
small5
「あぁ、そのとおりだぜ。もし、新型コロナが終息しないでいつまでも残り続けるとしたら・・・それは、新しい時代の幕開けになるんだろうな。きっと、後世の歴史家はこう書くだろう。「新型コロナウィルスが時代を変えた」と。
とはいえ、新型コロナは永遠に続くわけではない。希望を持って、終息を待っていいと思うぜ。」


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ペスト 訳:平井正穂 1973年12月10日 初版発行 中公文庫 445ページ
small5のオススメ
昔からある『ペストの記憶』の日本語訳。こっちの題名は『ペスト』。文庫本で445ページあり、おそらく省略無しのほぼ全訳。デフォーの原作により近い雰囲気や言い回しを味わいたい方にはこちらがオススメ。ただ、いくぶん古い表現もある。
読者の理解を助けるためのロンドン市街地地図付きだ。


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