Last update:2022,Oct,29

21世紀の世界

アルジェリア

21世紀のアルジェリアの概要

big5
「さて、今回注目する国はアルジェリアです。日本語での正式な国名はアルジェリア民主人民共和国、英語では"People's Democratic Republic of Algeria"です。ここでは「アルジェリア」で統一しますね。
おそらく多くの日本人にとって、アルジェリアは馴染みの薄い国だと思います。OLさんは、アルジェリアといえば何を連想しますか?」
名もなきOL
「う〜〜ん・・・・すみません、何も出てきません。。」
big5
「アルジェリアはアフリカ北岸、地中海に面したイスラム教の国です。住民の約8割はアラブ人ですが、残りの2割はベルベル人と呼ばれる、古来からこの地方に住んでいる人々になります。ベルベル人という括りはかなり大雑把で、様々な民族を含んだ表現です。アルジェリアは多民族国家の一つですね。
アルジェリアの特徴は、社会主義路線を取るイスラム教国、ということだと思います。今でも一夫多妻制が認められているなど、かなりイスラム教の教えが浸透していますが、政府は社会主義寄りで、国民生活への介入も大きいです。国家と宗教の両面で国民を統制している、とも言えますね。
というわけで、21世紀のアルジェリアの歴史を見ていきましょう。まずはいつもどおり、年表から見ていきましょう。」


黄色がアルジェリア。
地図提供:白地図専門店 様

年月 アルジェリアのイベント 世界のイベント
2001年 同時多発テロに対し、アメリカ支援を表明 9月11日 アメリカ同時多発テロ事件
12月 タリバン政権が打倒され、アフガニスタンに新政権樹立される
2004年 トランス・サハラにおける「不朽の自由作戦」に参加
2011年 アルジェリア騒乱 アラブの春の影響で政府への抗議運動広がるも、政府に弾圧される アラブの春
2013年 アルジェリア人質事件
2014年 ブーテフリカが選挙で大統領に再選される
2019年 ブーテフリカがようやく引退 テブンが大統領に当選
2020年 新型コロナウィルスが世界的に流行する
2021年 8月 モロッコとの国交断絶を宣言 東京オリンピック 開催
2022年 8月 フランスと共同で「アルジェ宣言」に署名 北京冬のオリンピック 開催

FLNによる政治独占

big5
「さて、まずはアルジェリアの政治面から見ていきましょう。アルジェリアは1962年の独立以来、社会主義路線で政治を進めており、政党は独立を成し遂げたFLN(民族解放戦線)しかありませんでした。現在では他の政党も存在していますが、アルジェリアの大統領はFLN出身者だけです。最近は、FLNのブーテフリカが1999年に選出されてから、約20年間に渡って大統領を務め続けていました。」

Bouteflika (Algiers, Feb 2006)ブーテフリカ 撮影:2006年2月8日 Author:Ricardo Stuckert/PR

名もなきOL
「20年はかなり長いですね。大統領の任期は何年なんですか?」
big5
「5年です。再選は2回まで、とう制限があったのですが、2008年に与党のFLNが大統領の再選数制限を撤廃する法案を可決させてしまい、今では何回でも大統領を務められる、という仕組みになっています。その結果、ブーテフリカは1999年に当選してから4期20年という長期に渡って大統領を務めました。2019年の選挙にも5期目を目指して出馬しようとしましたが、アルジェリア国内で大抗議運動が発生。やむなく、ブーテフリカは出馬を断念した、という経緯です。その後、ブーテフリカは2021年9月17日に自宅で心不全で亡くなりました。84歳になる年でした。」
名もなきOL
「さすがに20年も大統領をやっていたら、もう「国王」みたいなものですよね。反対運動が起こるのもわかる気がします。」
big5
「このような政治状況なので、政治もかなり独裁的です。2011年、アラブ諸国で民主化運動が盛り上がったアラブの春の時、アルジェリアでも大規模な反政府デモが発生しました。デモの要求の主だったものは
(1) FLNとブーテフリカ大統領の長期政権への抗議
(2) 失業率の改善と住宅問題の改善
などです。結局、デモ隊は警察によって弾圧されて鎮圧されました。これをアルジェリア騒乱と呼んでいます。
結局、アルジェリア騒乱で変わったことはほぼありません。一つだけ明らかなのは、1992年以来、ずっと実施されていた非常事態宣言がようやく解除され、政府による取り締まりが少しだけ緩んだくらいですね。」
名もなきOL
「社会主義路線の国って、たいていどこも独裁政権になりますよね。」
big5
「そうですね。2019年の選挙で、やはりFLNのテブンが大統領に就任しましたが、政治体制はほとんど変わっていないようです。」

Abdelmadjid Tebboune 20200119テブン 撮影日:2020年1月19日 Author:U.S. Department of State

国民生活への影響

big5
「アルジェリア国民の普段の生活にも、社会主義路線の政治の影響がよく表れているようです。MAMOR2022年11月号に掲載されている小野田2等空佐の記事によると、アルジェリア国民の日常食品である小麦には政府補助金が出ているので、長さ50cmのフランスパンが10円くらいで買えるそうです。」
名もなきOL
「フランスパンが10円!?しかも長さ50cmってけっこう長い!日本じゃ絶対無理な価格ですね。」
big5
「日本で同じことをやったら、米農家とか他の食品業者から「不公平だ!」と猛烈に反対されるでしょうね。でも、アルジェリアは既に実行済、というわけです。ちなみに、イスラム教国なので豚肉はないみたいですが、野菜や果物、牛肉なども日本よりだいぶ安い価格で買えるそうです。牛肉が安い、というのは私も正直羨ましいです。
日常の食品が安いことは、国民にとっては嬉しいことだと思いますが、その他の分野でも政府の介入がたいへん強いそうです。例として、バカロレア(高校卒業試験。実質、大学入試のようなもの)の時は不正を防ぐために、約1週間の試験期間中はインターネットがほぼ繋がらない、という措置が取られていました。これは、受験生ではなく一般企業も影響を受けるので、「業務が滞る」とたいへん不評でしたが、政府の都合でかなり長い間継続されました。ただ、テブン大統領が改善を約束し、2022年は試験初日以外はインターネットは使えたそうです。これはあくまで一例で、日常生活の様々なところに政府の介入がある、とのことです。」
名もなきOL
「そういうところは「政府の都合>>国民個人の都合」という、社会主義的考え方らしい政策ですね。」

イスラム原理主義テロとの戦い

big5
「アルジェリアが抱える大きな問題の一つがイスラム原理主義者によるテロです。アルジェリアの南部、マリやニジェール、さらに南のナイジェリア北部では、過激で時代錯誤な主張をするアルカイダなどのイスラム原理主義武装勢力が活動しており、治安がかなり悪い状態でした。
アルカイダ勢力の封じ込めなどを目的として、アメリカが2004年からトランス・サハラにおける不朽の自由作戦(Operation Juniper Shield)を展開。アルジェリアなど周辺の11か国が参加して、アルカイダ組織に対する備えが現在も続けられています。」
名もなきOL
「テロは怖いですし、アルカイダの女性蔑視の主張は到底納得できません。アルジェリアには頑張ってほしいです。」
big5
「しかし、テロ組織との戦いは簡単には進みません。その代表例が2013年に発生したアルジェリア人質事件(In Amenas hostage crisis)です。」
名もなきOL
「そのニュース、聞いた覚えがあります。確か、日本人も巻き込まれたんですよね?」
big5
「はい、そのとおりです。そのため、日本でも報道されていました。記憶に残っている人もいいと思います。事件がの概要は以下のようになります。
2013年1月16日、アルジェリア南東部のイナメナス付近にある天然ガス精製プラントが、アルカイダ系の「イスラム聖戦士血盟団」の襲撃を受けました。このプラントはアルジェリア国営企業やイギリス、ノルウェーの企業が出資する合弁企業です。プラント建設には化学プラント建設に強い日本企業の日揮も加わっており、プラントには日本人技術者もいました。年間生産量は90億立方メートルで、これはアルジェリアの国内生産量の約10%にあたるそうです。
テロ組織は16日の早朝にプラントを襲撃し、アルジェリア人150人、外国人41人を人質に取りました。外国人人質の主だった内訳は、日本人:10人、アメリカ人:7人、フランス人:2人、イギリス人:2人、アイルランド人:1人、ノルウェー人:13人、となっていました。
犯行グループは、フランスのマリからの撤退、アルジェリア政府に逮捕されているテロ組織メンバーの解放などを要求します。アルジェリア軍は翌日の17日から作戦行動を開始。21日にはアルジェリア軍特殊部隊が突入してイスラム聖戦士団を制圧しました。この事件で少なくとも人質37人(うち、日本人10人)が死亡したとアルジェリア政府が発表しました。」
名もなきOL
「テロって本当に怖いです。そして酷いです。日本人の人質なんて、全然関係ないはずじゃないですか。日本政府は何をやっていたんですか?」
big5
「OLさん、外国で起きたテロ事件について日本政府を責めるのはだいぶ筋違いです。外国で起きたテロ事件に関して、日本政府が関与できる部分は情報の早期入手くらいなんです。まず第一に、アルジェリア政府が対応します。そうでなければ、アルジェリアは独立国とはいえません。自衛隊の特殊部隊を派遣したらいい、という意見もネット上にはありましたが、自衛隊が外国で作戦行動を取る、なんてことは日本の法律上、違法なことなんです。ただ、アルジェリア人質事件を受けて、外国で自衛隊ができる範囲は少し広がりました。」
名もなきOL
「そうだったんですね。すみません、知識が足りなかったです。「少し広がった」というのはどういうところですか?」
big5
「具体的には、外国のテロ事件で日本人を保護するために、陸上輸送も可能とする、としました。これまでは、船による輸送と飛行機による輸送のみが認められていました。つまり、被害に遭った日本人は港や空港まで自力で行くか、その国の人に助けてもらった移動する必要があったわけです。これでは、被害者が港や空港まで来れない場合、自衛隊は助けたくても助けられないので、陸上輸送も可能としたことで大使館や日本人学校などまで自衛隊が車で入って行ってもよし、となりました。この時、武器の携行は派遣先の国の許可を得た場合に可能で、使うのは自分たちを守るため、だけです。人質救出のために現場に突入する、なんてことは現状では到底無理です。」
名もなきOL
「国際協調を考えると、自衛隊ができることをどこまで広げるのか、を真剣に考える必要があるわけですね。勉強になりました。」

アルジェリアの外交

脅威は西隣のモロッコ

big5
「次は、アルジェリアの外交面を見ていきましょう。独立以来、非同盟路線を取っていましたので、諸外国との関係はおおむね中立的です。ただ、例外は西隣のモロッコです。独立以来、モロッコとは険悪でした。国境付近のアルジェリア領で発生した山火事にはモロッコが関与しているとか、アルジェリアが西サハラの独立を支持している(ポリサリオ戦線を支援している)のに対し、モロッコは西サハラ領有権を主張するなど、とにかく険悪です。2021年8月24日、アルジェリアは正式にモロッコとの国交断絶を宣言しました。」
名もなきOL
「日本も周辺国といろいろありますけど、アルジェリアもいろいろあるんですね。」

フランスとの関係

big5
「アルジェリアの元支配国であるフランスとの関係は、今後好転するかもしれません。2022年8月27日、フランス大統領・マクロン(Macron この年45歳)とアルジェリア大統領・テブン(この年77歳) がアルジェリアにてアルジェ宣言を発表。アルジェリアがフランスから独立して60周年を迎え、両国の新たな協力関係を築いていく、という友好関係の発展を宣言しています。まず、ロシアのウクライナ侵攻に伴う天然ガス不足について、アルジェリアからフランスへの供給量を50%増やすということから検討している、とのことです。」

ニュース記事の引用

名もなきOL
「元支配国との関係って、あんまり良くないイメージがありますけど、両国の関係がうまく行けば、他の国々にもいいお手本になるかもしれないですね。これには期待したいです。」


今後のアルジェリア

big5
「ここまで見てきたように、アルジェリアは社会主義路線のイスラム教国、というかなり珍しい性格を持つ国です。政治面では、今後もFLNの独裁体制が継続されるかどうか、が注目点でしょう。」
名もなきOL
「ブーテフリカ大統領の20年とか、だいぶ極端ですよね。もっと民主化すればいいんじゃないか、と思います。」
big5
「私は、独裁が悪くて民主化が正しい、が常に成り立つとは限らない、と思います。ただ、長期に渡る独裁政権は、腐敗を招くことは間違いないでしょう。この面から見て、アルジェリアが今後どうなっていくか、私も注視していこうと思います。
イスラム原理主義テロ勢力との戦いは要注意です。既に、日本人をはじめとした外国人を巻き込んだ大事件が発生しています。近年は治安回復してきたようですが、まだまだ警戒を緩めていい状況ではないでしょう。
外交面では、やはりモロッコとフランスとの関係が注目点ですね。モロッコとは国交断絶してしまっているので、下手をすると武力衝突にもなりかねません。西サハラ独立を目指すポリサリオ戦線にとって、西サハラ独立が悲願であることはわかるのですが、戦争は避けてほしいです。フランスとは、支配ー被支配という過去の関係を乗り越えて、新たな友好関係が築けるかどうか、が注目点だと思います。
そして、天然ガスを始めとした資源大国・アルジェリアの重要性は、日本にとっても大きいと思います。例えば、天然ガスの輸入など、日本の貿易相手として相応しいのではないか、と思います。ただ、面している海が地中海のみ、というのが少々気になるところです。スエス運河を使えば短縮はできるものの、輸送に時間も費用もかかってしまう、というのが課題でしょう。

と、言ったところで今回はここまで。
ここまでご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」


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参考文献・Web site

MAMOR 2022年11月号 Air Mail「多様性を持つ資源大国、アルジェリア民主人民共和国」 小野田廉平2等空佐