big5
「さて、今回注目する国はオーストラリア連邦です。おそらく多くの日本人にとって、オーストラリアはよく知られた国だと思います。」
名もなきOL
「グレートバリアリーフにエアーズロックの大自然、シドニーとかメルボルンとかのキレイな都市とか、海外旅行の行先としても魅力的ですよね。」
big5
「今回は、観光情報などは他のサイトにお任せするとして、歴史の観点で21世紀のオーストラリアを見ていきたいと思います。
まずはいつもどおり、年表から見ていきましょう。」
黄色がオーストラリア。
地図提供:白地図専門店 様
年月 | オーストラリアのイベント | 世界のイベント |
2001年 | 9月11日 アメリカ同時多発テロ事件 12月 タリバン政権が打倒され、アフガニスタンに新政権樹立される |
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2007年 | 自由党のハワード内閣が総選挙で敗北。労働党のラッド内閣成立 | |
2010年 | 労働党のギラード内閣成立 オーストリア史上初の女性首相 | |
2011年 | アラブの春 | |
2013年 | 総選挙で労働党敗北 自由党のアボット内閣成立 | |
2015年 | ターンブル内閣(自由党)成立 | |
2016年 | 海軍の次期主力潜水艦をフランス企業と開発を開始 | |
2018年 | 8月24日 モリソン内閣(自由党)成立 | |
2020年 | 新型コロナウィルスが世界的流行が始まる | |
2021年 | 1月1日 国歌の歌詞の一部を変更 次期主力潜水艦について、フランス企業との開発をキャンセルしアメリカと連携 |
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2022年 | 1月6日 日豪円滑化協定締結 5月23日 アルバニージー(労働党内閣)成立 |
2月 ロシアがウクライナに侵攻開始 |
2023年 | 3月13日 AUKUS首脳会合で原子力潜水艦艦隊の配備計画が発表される | |
big5
「1999年、オーストラリアは従来の白豪主義を捨てて、先住民や外国からの移民の歴史や文化を受容する多文化主義を掲げてきました。21世紀になっても、問題はまだ残っているものの、歴代の政権は多文化主義路線を受け継いできました。民主主義国家ですので、政権は国民の選挙結果によって変化しています。まずは、政権の変遷を見ながら21世紀のオーストラリアの歴史をざっと見ていきましょう。
まず、2007年に約10年の長期政権を担っていた自由党が総選挙で敗北。勝利した労働党が与党となり、ラッド(Rudd)が首相となって労働党内閣が成立しました。」
名もなきOL
「労働党ということは、左派なんですか?」
big5
「そうですね。社会民主主義の政党で、中道左派と言われています。ラッドは大学で中国語と中国史を学んでおり、北京語をかあんり上手に話せました。西側諸国の首相の中で、中国語を話せる人はラッドが初めてみたいですね。そのため、周囲はラッドを親中派とみなしていました。当時、オーストラリアは経済的な面から中国との関係強化を進めていましたので、その点も含めてオーストラリアは親中路線をさらに強化するのではないか、と考えられました。」
名もなきOL
「実際のところはどうだったんでしょう?」
big5
「結果的に中国との関係は悪化しました。まず2008年4月にラッドは北京大学に行き、北京語で講演したのですが、その中で
「チベットには顕著な人権問題がある。」
と言ったため、中国から批判を受けます。さらに、2009年7月には世界ウイグル会議のラビア・カーディルドに対してビザを発給したことで中国からさらに批判されるようになり、対中関係は悪化しました。」
名もなきOL
「ラッドさんのチベットに関する発言はまさに事実ですし、ウイグルの件も真っ当な対応だと思いますが・・・それを許さないのが中国なんですね。」
big5
「そんなこともあったため、2010年6月24日に開催された労働党の党首選挙には出馬しませんでした。これにより、副首相であったギラード(Gillard この年49歳)が無投票で労働党党首となり、首相を引き継ぐことになりました。」
big5
「ギラードの名前は「ジュリア(Julia)」で女性です。オーストラリア史上初の女性首相となりました。」
名もなきOL
「いいですね、女性首相!がんばってほしいです!」
big5
「初の女性首相ということもあり、ギラードの支持率は高かったそうです。高い支持率を背景に、ギラードは代議院(下院)を解散して総選挙に踏み切り、2010年8月21日の総選挙の結果、下院は労働党が過半数を確保しました。これで政権の足元を固めたわけですね。」
名もなきOL
「いいですね、やり手の政治家のようです。これはがんばってほしい!」
big5
「ギラードは2011年の東日本大震災の後、2011年4月21日に訪日し、宮城県南三陸町を視察しました。日本でもオーストラリア初の女性首相が来た、ということで一時話題になりましたね。
しかし、2012年の労働党党首選挙で前首相のラッド氏と激しい戦いになります。選挙はギラードの勝利となったのですが、この党内選挙戦でお互いに人格否定を含む激しい中傷合戦が繰り広げられたため、2人の不和が明るみなっただけでなく、労働党内の内部対立も国民の目に触れられることになり、支持率が下がり始めます。2013年の労働党党首選挙でラッドと再び争った結果敗北。ギラードは首相を辞任し、ラッドが首相に返り咲きとなりました。」
名もなきOL
「あら、残念。。労働党内の揉め事で引きずりおろされた形での辞任だったんですね。」
big5
「はい。しかし、それから間もない2013年9月7日の総選挙で労働党が保守連合に敗北し、ラッド政権はわずか3カ月弱で倒れました。労働党政権は約6年で幕を閉じることになったわけですね。」
big5
「2013年総選挙の結果、自由党のアボット(Gillard この年56歳)が首相となりました。」
big5
「アボットは自由党政権時代に大臣も経験しており、野党となった後も自由党党首として活動を続けていました。労働党から政権交代し、期待されていました。対日関係では、2014年4月に来日しています。
しかし、2015年1月に、イギリスのエジンバラ公フィリップに対して称号を授与することを独断で決めたことが批判されるようになりました。これを機に、これまでの経済政策や指導力にも疑問が呈されるようになり支持率が低下。批判は野党はもちろん、自由党内からも続出してしまいました。結果、2015年9月14日に同じ自由党員で通信大臣のターンブルに退陣を迫られ、自由党党首選挙を行ってターンブルに敗北。翌日の9月15日に首相を辞任しました。」
名もなきOL
「2015年にもなって、イギリスのご機嫌を取るようなことをして批判されてしまったんですね。そして、アボットさんも党首選挙に敗れて辞任、という形だったんですね。」
big5
「はい、オーストラリアの首相は、党内で支持率が下がると党首選挙を行って党首になる(=首相になる)という手順が踏まれることが多いですね。首相が与党内党員から選ばれる、という点では日本と同じですね。」
big5
「次の首相はアボットを退陣させたターンブル(Turnbull この年61歳)です。」
big5
「自由党は中道右派と言われ、保守系の政党なのですが、ターンブル自身はリベラル派と言われており、発言内容は左派的な見解が多いです。例えば、中国に対しては「抗日で戦った最も長い同盟国だ」と親中的な発言をしています。」
名もなきOL
「労働党のラッドさんは、中道左派政党なのにチベットやウイグル問題で本当の事を言って批判されたのに、ターンブルさんは中道右派政党なのに親中発言なんですね。政治ってわからないな。。」
big5
「ただ、実際に執った政策は中道右派らしいものでした。中国の南シナ海進出に対しては、日米豪印4ヶ国体制の枠組みを維持しましたし、2015年12月18日に来日して安倍晋三首相と会談。捕鯨については苦言を呈するも、中国による南シナ海埋め立ては共に停止を求めることで合意し、またオーストラリア軍と自衛隊の共同訓練を推進することを約束しています。」
名もなきOL
「なるほど、発言内容と政策が常にイコールというわけではないんですね。やっぱり政治って難しいですねぇ・・」
big5
「2017年1月28日には、大統領となってまだ日が浅いアメリカ合衆国のトランプ(この年71歳)と電話会談をしています。この電話で、前政権のオバマ大統領と合意した、オーストラリアで難民申請している1250人をアメリカで受け入れる、という話の履行を求めたのですが、トランプはこれを拒否。ツイッターにも「このバカな取引の中身を調べる」とコメントし、ニュースになりました。」
名もなきOL
「オーストラリアの話と言うよりも、トランプさんの人となりを示しているニュースですね。」
big5
「また、ターンブルは2016年にオーストラリア海軍の強化のために、次期主力潜水艦の建造をフランス企業に選定しました。安全保障面でも南シナ海問題を想定していたようですね。
このようなターンブル政権でしたが、2018年には支持率が低下。翌年の2019年に総選挙を控えているのにこれはマズイ、ということで自由党党首選挙が行われました。ターンブルは僅差で勝利したものの、閣僚10名が辞任を表明してしまい、8月24日に党首解任案が提出されたため、首相を辞任しました。」
名もなきOL
「ターンブルさんも、党内で引きずりおろされたんですね。支持率低下⇒党内で引きずりおろし という図式どおりですね。」
big5
「民主主義、というのは選挙で為政者を決める以上、人気投票のような側面があるものなんです。」
big5
「モリソンはターンブル内閣で大臣を経験しています。支持率が低下したターンブル内閣に代わったものの、2019年の総選挙では直前まで自由党劣勢と伝えられていました。しかし、結果は自由党をはじめとした与党連合の勝利となり、モリソン内閣は続投します。
2021年1月1日、小さい話ですが、でも多文化主義を推進するオーストラリアを象徴するかのような変更が行われました。国歌歌詞の変更です。」
名もなきOL
「日本でいうなら、君が代の歌詞を一部変更した、っていうことですよね。確かに、あまり聞かない話ですよね。どのように変更されたんですか?」
big5
「"We are young and free"という歌詞が"We are one and free"と、youngがoneに変わったんです。元々のyoungは、オーストラリアはまだ歴史の浅い若い国、という意味だったのですが、これは白人の視点で考えた話です。白豪主義を捨て、多文化主義を推進するオーストラリアにとっては、あまり好ましい内容ではなかったわけですね。
2022年1月6日には、日本と日豪円滑化協定が結ばれました。これは、「自衛隊とオーストラリア国防軍との間における相互アクセスおよび協力の円滑化に関する協定」という内容のものです。」
名もなきOL
「なんとなくはわかるんですけど、具体的にはどういう協定なんですか?」
big5
「例えば、外国へ自衛隊が災害復興支援に派遣される際、自衛隊がオーストラリア軍の基地を利用したりしてもいい、という協定ですね。太平洋には小さな島国が数多くありますが、これら諸国の支援には、日本とオーストラリアが協同することで、より効率的に被災した人々を救うことができる、という狙いです。MAMOR2022年6月号に掲載されたオーストラリア防衛駐在官・八杉1等空佐のレポートによると、日本がこのような協定を結んでいるのはオーストラリアくらいしかないない、とのことです。そして、この協定は自衛隊の海外支援活動に役立っている、とのことです。
また、八杉1等空佐のレポートによると、ダーウィン空襲80周年記念式典(第二次大戦中、日本はオーストラリアのダーウィンに空襲をした)において、モリソンは「かつての敵は、今や最も信頼できる誠実な友人の一人になった。」と日本を評価しました。」
名もなきOL
「なるほど、あまり報道されたりニュースで取り上げられたりしていないですけど、オーストラリアとの協力体制は着実に深化していっているんですね。」
big5
「新型コロナウィルス流行にあたっては、発生源の調査を第三者が行うように求めましたが、中国はこれに怒り、報復措置として大麦や牛肉などに高関税を課す、という対応を示しました。これにはオーストラリア国民の多くも反感を覚えたようで、メディアでは「両国関係は史上最悪」と評価しています。
その一方で、問題になった政策もありました。まず、次期主力潜水艦の件では、ターンブル内閣がフランス企業を選定したのを取り消して、アメリカの原子力潜水艦を購入することに変更しています。これには、同じ自由党であるターンブルは当然のように怒り、モリソンを批判しました。また、モリソンは水面下で一つの大きな問題を抱えており、政権交代の後にそれが暴露されてしまうのですが、それは次のアルバニージー政権のくだりで紹介します。
このようなモリソン政権でしたが、2022年5月22日の総選挙で与党連合が労働党に敗北。翌日の5月23日にモリソンは首相を辞任しました。ラッド政権以来、約9年ぶりの労働党政権ですね。」
big5
「アルバニージーは控えめで目立たないタイプで、知名度はいま一つでしたが、以前の労働党政権では国土交通大臣や副首相を務めていました。2022年5月の総選挙ではモリソン内閣の森林火災対応の遅れや、新型コロナウィルスワクチン調達の遅れ、さらに物価高にも関わらず賃金が上がっていないことなどを指摘する一方で、外交や安全保障では政策を受け継いでいく、と主張していました。選挙戦の勝利が確定すると
「シングルマザーの息子で、公営住宅で育った人物が首相として皆さんの前に立つことができる。オーストラリアは素晴らしい。」
と語っています。」
名もなきOL
「写真をみた感じでは、おとなしくて控えめっぽい印象がありますね。シングルマザーの息子で公営住宅で育った、というのは苦労人だった、ということなんでしょうね。」
big5
「はい、おそらく。日本でも菅直人が首相になった時に「サラリーマンの息子が首相になった」という話がありましたね。
アルバニージーは2022年9月27日に、安倍元首相の国葬に参列しました。
11月15日には、インドネシアで開催されたG20で中国の習近平国家主席と首脳会談を行いました。中国とオーストラリアの首脳会談は6年ぶりになります。報道によると、会談は約30分ほどで短いものだったようですが、習近平はオーストラリアとの関係を重視していると伝える一方、アルバニージーは
「私たちには相違点がある。オーストラリアは自分たちの利益と価値観から離れることはできない。が、2国間関係は重要だ」
と話したそうです。また、コロナウィルス発生源調査がきっかけで課された高関税の廃止を求めた、とも伝えられています。オーストラリアにとって中国は大きな輸出国の一つなので、貿易の正常化は大きな経済問題の一つですね。
元記事はこちら」
名もなきOL
「台湾の件や南シナ海の件など、最近の中国の動きは本当に戦争の準備をしているんじゃないか、と思いますよね。G20のような場で、中国の横暴がまかり通らないようにしっかりと釘をさしておくのはとても大事だと思います。」
big5
「2023年3月13日、オーストラリアがアメリカ、イギリスと組んでいる安全保障条約AUKUSの首脳会合がアメリカのカリフォルニア州サンディエゴで開催されました。アルバニージー首相、アメリカのバイデン大統領、そしてイギリスのスナク首相は3人で記者会見を行い、オーストラリアに次世代原子力潜水艦艦隊を配備することを発表しました。まず第一段階として、2023年からオーストラリア海軍から人員が米英に派遣されて原子力潜水艦運用のための教育訓練を開始し、第二段階として2027年からはオーストラリアのパースに、米英の原子力潜水艦を配備。そして第三段階として、2030年代初頭にアメリカからヴァージニア級原子力潜水艦3隻を購入(追加で2隻購入するオプション付き)する、という計画です。
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AUKUS首脳会合
big5
「次に貿易面の話です。2022年11月22日にインドと自由貿易協定(FTA)を締結することを議会が承認しました。インド側も、この知らせに好意的なコメントを発表しており、両国間で調整が行われた後に発効する見込みとなっています。関税については、オーストラリア⇒インドについては完全撤廃、インド⇒オーストラリアについては輸出額の9割超で関税免除となる見込みになっており、インドからオーストラリアに輸出される繊維、宝石・貴金属、医薬品などの量が増加する、と期待されています。これからこの協定は具体的には「経済協力・貿易協定(AI-ECTA)」というもので、関税の自由化に留まらず、両国の経済協力を推進するものです。」
名もなきOL
「こういう友好的な政治の話ばかりだといいですね。」
big5
「内政面では、モリソン前首相が秘密裏に閣僚の権限を共有していた、という事実を発表しました。
元記事はこちら」
名もなきOL
「「閣僚の権限を共有」ってどういうことですか?」
big5
「ある案件について、閣僚のサインがなくても、首相のサインがあれば正式に承認される、ということです。これが秘密裏に行われていたことが問題視されています。さらに、モリソンは資源相、内務相、財政相、保険相、財務相の5閣僚について、権限を共有していたのですが、このうち3人はこのような仕組みになっていることについて知らなかった、と言っていることも問題視されています。」
名もなきOL
「ウチの会社でも上司のハンコは捺されてはじめて書類が完結するんですけど、勝手に他の人が上司の代理でハンコを捺して完結してしまったら、問題になりますね。しかも、上司は自分の代理がいるなんて知らない、となったらな大問題です。これは、細かい話かもしれませんが、重要な話ですよね。」
big5
「はい。なので、アルバニージーは閣僚任命に関して透明性を高める規則を導入する、と発表しました。」
big5
「さて、上述のようにオーストラリアの国家元首はイギリス国王であり、国王の代理人である総督が存在する国です。しかし、実際にはほぼ独立した共和国になっていますので、完全な共和制へ移行すべき、という話はしばしば取り上げられていました。具体的には、2010年8月17日にギラード首相(労働党)が共和制への移行を支持していると表明しています。また、労働党に限らず自由党のターンブル首相も共和制への移行を支持しています。」
名もなきOL
「実質的にはイギリスからもう独立して独自の道を歩み始めていますもんね。あとは、何かきっかけがあれば完全な共和制へ移行するんじゃないか、って思いますね。」
big5
「そうですね。あるいは、実質的な共和制国家という現状のまま、という可能性もありますね。
と、言ったところで今回はここまで。
ここまでご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」
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