big5
「さて、今回注目する国はモロッコ王国です。略称は「モロッコ」ですが、ここでは「モロッコ王国」で統一しますね。というのも、モロッコ王国は立憲君主制国家で、国王も政治にある程度関与しているからです。モロッコが王国である、ということを印象付けるためにも、ここでの呼称は「モロッコ王国」とします。
おそらく多くの日本人にとって、モロッコ王国は馴染みの薄い国だと思います。OLさんは、モロッコ王国といえば何を連想しますか?」
名もなきOL
「キレイな景色が楽しめる海外旅行のイメージですね。映画で有名なカサブランカのイメージがありますね。旅行に行った友達が「凄い良かった!」って言ってましたよ。」
big5
「そうですね。モロッコ王国は大西洋に面した縦に長い国です。地中海の入り口でもあるので、歴史の深い土地でもあります。
というわけで、21世紀のモロッコ王国の歴史を見ていきましょう。まずはいつもどおり、年表から見ていきましょう。」
黄色がモロッコ王国。点線より下に「西サハラ」と記載されているのが領土問題係争中
地図提供:白地図専門店 様
年月 | モロッコ王国のイベント | 世界のイベント |
2001年 | 9月11日 アメリカ同時多発テロ事件 12月 タリバン政権が打倒され、アフガニスタンに新政権樹立される |
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2001年 | ペレヒル島危機 スペインと緊張関係になったがアメリカ仲介で戦争は回避 | |
2003年 | 5月16日 カサブランカでイスラム過激派が自爆テロ | |
2004年 | ムハンマド6世が新家族法の主導権をとって制定 | |
2007年 | 3月 カサブランカでアメリカ総領事館等を狙った爆破テロ事件 | |
2011年 | 4月 マラケシュで爆弾テロ事件 7月 憲法を修正 |
アラブの春 |
2017年 | 1月31日 アフリカ連合に再加入 | |
2018年 | 5月 イランとの国交断絶を発表 | |
2020年 | イスラエルとの国交正常化 見返りとして、アメリカが西サハラ領有権を認める 11月 ポリサリオ戦線が停戦協定を破棄 局所的に戦闘が行われる |
新型コロナウィルスの世界的流行が始まる |
2021年 | 総選挙で与党第一党の公正発展党が大敗北し第八党となって下野 | |
big5
「21世紀に入り、モロッコ王国は比較的安定しています。それでも、2001年9月11日にアメリカで発生した、アルカイダによる同時多発テロは、モロッコ王国の政策にも大きな影響を与えることになりました。モロッコ王国は立憲君主制の下、イスラム教国でありながら西側陣営に近い立場を取っていたため、アメリカを支持します。しかし、国内の一部のイスラム過激派はこれに不満を持ち、2003年5月16日、大都市のカサブランカで自爆テロ事件が発生しました。このテロ事件でフランス人やスペイン人など、33名が死亡しました。2007年には、同じくカサブランカでアメリカ総領事館などを狙った自爆テロ事件が発生し、2011年には西部の都市・マラケシュのカフェで爆弾テロ事件が発生し、外国人観光客ら17名が死亡する、という事件も発生しています。」
名もなきOL
「イスラム過激派の自爆テロは本当に怖いですね。。モロッコ王国はアフリカ諸国の中でも治安も良くて、海外旅行を楽しみやすい、といったイメージがあったのですが。。」
big5
「モロッコ政府の取り締まり強化により、大規模なテロは、2011年のマラケシュのテロを最後に発生していません。ただ、イスラム過激派の関与が疑われる事件はたびたび発生していますので、」
名もなきOL
「日本では過激派による爆破テロ事件とかまず発生しませんからね。その点では、私は日本人で本当に良かったな、と思います。」
big5
「モロッコ王国を考えるうえで、絶対に避けて通れないのが西サハラ帰属問題です。今、日本で世界地図を買うと、たいていの場合西サハラは白で塗られています。これは、西サハラの帰属問題が今も係争中になっているからです。」
名もなきOL
「西サハラって、今はどういう状態なんでしたっけ?」
big5
「モロッコ王国が西サハラの約7割を実効支配しています。しかし、西サハラの独立を望むポリサリオ戦線は活動を継続しています。軍事力の質も量も、モロッコ王国がボリサリオ戦線を圧倒していますが、ポリサリオ戦線は隣国のアルジェリアの支援を受けており、問題解決の糸口はまだ見えない状況ですね。
また、国際社会の見解も様々です。アメリカは2020年にモロッコ王国がイスラエルとの国交正常化を認める代わりに、モロッコ王国の西サハラにおける主権を正式に認めています。その一方で、南のモーリタニアやアフリカ連合は西サハラを「サハラ・アラブ民主共和国」として加盟することを認める、つまり国家として承認しています。」
名もなきOL
「これはかなり難しいですね。国連は何をしているんですか?」
big5
「21世紀が始まる前の1988年に、国連の和平提案を双方とも受け入れました。1991年には住民投票で帰属先を決める、という話で決まったのですが、この地域は遊牧生活の人が多く、そもそも誰が住民として投票資格を持つのか、という問題をクリアできず、投票は無期限延期となってしまいました。
国連は国際問題を話し合いで平和的に解決するための組織ですが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻戦争も止めらていません。残念ながら、現在の国連では解決できない国際問題はいっぱりあるのが現状ですね。
ちなみに、モロッコ王国は西サハラが国家としてアフリカ連合に加盟したことに怒り、アフリカ連合を脱退していましたが、2017年1月31日に再加入が認められました。ただし、これは西サハラ帰属問題の解決にはなっていません。」
big5
「モロッコ王国はイスラム教スンニ派の国ですが、イスラム教の伝統を継承しながらも、新しい価値観を受け入れることに前向きな政策をとっています。わかりやすい事例が、2004年に制定された新家族法です。この法律の制定には、国王のムハンマド6世(Mohammed VI この年41歳)が主導権を持って制定された、というのもポイントです。」
名もなきOL
「新家族法ってどんな法律なんですか?」
big5
「モロッコ王国ではイスラム教の教えに従い、男性は4人まで妻を持つことが可能です。しかし、新家族法によって、女性は結婚の時に相手の男性に自分以外に妻は持たない、と請求することが可能となりました。女性は自分自身の意思で結婚が可能となり、また家庭における夫婦の責任は同等となりました。」
名もなきOL
「う〜ん、私から見ると、全部「当たり前」の話だと思うんですが・・・。これが2004年に法律として新たに決められたということは、今まではそうではなかった、ということですよね。女性の権利が引き上げられたことは評価できますが、まだ満足できるレベルじゃないな、と思います。」
big5
「歴史的な伝統と最近の価値観のせめぎ合いと落としどころは難しい、というのは古今東西共通の原理ですね。
ちなみに、ムハンマド6世の妻(王妃)はラーラ・サルマ(2004年で26歳)で側室はいません。二人の間には一男一女がいます。」
big5
「立憲君主制のイスラム教国、というわりと珍しい体制のモロッコ王国は、近年の自由主義政策によって経済成長が続いており、アフリカ諸国の中でもかなり安定している国です。また、MAMOR2022年7月号の石田正裕2等空佐のレポートによると、外国人や異文化に対する寛容性も高く、観光業も盛んで人気です。
一方、イスラム過激派のよるテロや、西サハラをめぐる問題もありますが、アフリカ諸国、そしてイスラム諸国の中でも寛容な自由主義国家として発展していくのではないか、と期待しています。
と、言ったところで今回はここまで。
ここまでご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」
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