big5
「さて、今回のテーマは「現代ナイジェリア」と題しまして、アフリカの中でも面積、人口共に大きいナイジェリアについて見ていこうと思います。正式な国の名前はナイジェリア連邦共和国(Federal Republic of Nigeria)ですが、ここでは略して「ナイジェリア」で統一しますね。
OLさんは、ナイジェリアといえば何を連想しますか?」
名もなきOL
「う〜〜ん・・・・ナイジェリアといえば・・・治安が悪い、っていう話を聞いたことあります。」
big5
「そうですね。ナイジェリアで一番の大都市・ラゴスは、治安が悪い世界3大都市に数えられています。他には、何を連想しますか?」
名もなきOL
「正直なところ、あまり馴染みがないんですよね。。他には・・うーん・・・アルジェリア、とか??」
big5
「アルジェリアは別の国ですね。もしかして、名前が似てる、っていう意味で連想しました?」
名もなきOL
「はい、スミマセン。。」
big5
「OLさんが「ナイジェリア」と聞いてもあまり連想できないのも仕方ないですね。現代日本人にとって、あまり馴染みが無いのでそれも仕方ありません。ですが、ナイジェリアは以下の点でかなり重要な大国なんですよ。
1.人口 約2億人 アフリカ大陸では断トツ1位。世界でも7位
2.産油国 OPEC加盟国
3.国連安保理 非常任理事国
ざっと上げるだけでもこれくらいあります。ナイジェリアは今後発展が期待されているアフリカの大国なんです。産油国でもあるので、日本にとっても重要なパートナーになりうる存在なんですね。
というわけで、現代のナイジェリアと歴史、主に現代史を見ていきます。」
ナイジェリアの位置。アフリカ大陸のほぼ中央で、ギニア湾に面している
地図提供:白地図専門店 様
年月 | ナイジェリアのイベント | 世界のイベント |
1960年 | 10月1日 ナイジェリアがイギリスより独立 | アフリカの年 アフリカで多くの国々が独立 |
1967年 | 7月6日 南東部のビアフラ州が分離独立を宣言(ビアフラ戦争 開戦) | |
1970年 | 1月12日 ビアフラ共和国が降伏。ビアフラ戦争 終結 | |
1991年 | 首都機能をラゴスからアブジャに移転 | |
2014年 | 4月 ボコ・ハラムによるナイジェリア生徒拉致事件 | |
2015年 | 3月31日 大統領選挙でムハンマド・ブハリが当選 | |
2019年 | 2月23日 大統領選挙でムハンマド・ブハリが当選(2期目) | |
2020年 | 新型コロナウィルスの世界的流行が始まる | |
2021年 | 6月 ボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウが戦死 | 7月〜8月 第32回オリンピック(東京) 開催 |
2022年 | 3月 ナイジェリア国軍参謀長が軍全体の70-80%が治安維持任務で常時展開しており、本来の軍の姿ではない、と会見で発表。 9月7日 シルバ石油資源相がミラノの会合で来冬までに欧州へより多くのLNGを供給可能、と発言 10月 南部に大洪水発生 |
2月24日 ロシアがウクライナに侵攻 |
2023年 | 2月25日 大統領選挙&議員選挙 3月1日 与党・全進歩会議(APC)のティヌブが大統領に当選 |
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big5
「さて、話は1960年から始めます。現在のナイジェリアには数多くの部族が存在します。世界史の舞台に出てきたのは、15世紀頃。大航海時代にポルトガルが黒人奴隷貿易の拠点としてラゴスを建設しました。その後、イギリス領なりましたが、1960年、いわゆるアフリカの年に、他のアフリカ諸国と同様に独立を果たしました。しかし、その後のナイジェリア情勢は、これまた他のアフリカ諸国と同様に大変な苦難の道となりました。
ナイジェリアは500近い民族を抱える多民族国家です。言語も、方言も含めると確認されているだけで500くらいあります。宗教的には、北部の人々が砂漠のキャラバン伝えのイスラム教徒、南部がキリスト教徒、その他、地域のシャーマニズム信仰の人々など、多宗教国家です。ナイジェリアとして独立したとはいっても、内情は様々な民族の集合体、というものでした。」
名もなきOL
「そうなると、ナイジェリア国内でいろいろな摩擦が発生したんでしょうね。」
big5
「はい。独立から7年経った1967年、ナイジェリア南東部でイボ族がナイジェリアからの分離独立して「ビアフラ共和国」の成立を宣言。ナイジェリア本国と戦争になりました。これをビアフラ戦争とかナイジェリア内戦と呼びます。諸外国は、ビアフラ共和国を支援する国(フランス・中国など)とナイジェリア本国を支援する国(アメリカ・ソ連・イギリスなど)に分かれ、約2年半にわたる内戦となりました。現代戦の激しさに加え、ナイジェリアは戦局打開のためにビアフラ共和国を兵糧攻めにし、ビアフラ共和国では栄養失調で多くの子供達がなくなるなど、犠牲者の数は100万人にのぼった、と考えられています。
最終的に、1970年1月12日にビアフラ共和国が降伏し、ナイジェリア本国に戻る形で戦争は終結しましたが、激しい内戦はナイジェリア国内に大きな爪痕を残しました。」
名もなきOL
「アフリカ諸国が独立したのはいいと思うんですけど、独立後の国家運営はどこもたいへん苦労していますね。しかも、これって遠い昔の話ではなくて、わりと最近の話なんですよね。平和って、本当に尊いものですね。」
big5
「まさにその通りです。ビアフラ戦争終結後も、ナイジェリアの国情は安定しませんでした。ナイジェリア軍は政治にも強い力を持っており、軍事クーデターが相次ぎます。軍事クーデターが起きると、たいていの為政者は民政化への移行を表明しているのですが、なんだかんだで民政化には移行しきれず、これまでに7回の軍事クーデターで政権が変わりました。
ナイジェリアが民政化に移行できた、と言えるのは1999年の大統領選挙の時でしょうか。ほんの20年くらい前の話です。」
名もなきOL
「ようやく政治が安定してきたんですね。このまま平和が続いてほしいですが・・・」
big5
「残念ながら、ナイジェリアの平和は長続きしなかったんです。政治が安定してきた一方で、ナイジェリア国内に恐るべきテロ組織が誕生してしまいました。テロ組織の名はボコ・ハラム(英語名:Boko Haram)です。世界的に有名なのは、2014年4月に発生したナイジェリア生徒拉致事件ですね。OLさんもニュースで見たのでは?公立の中高一貫女子高の女子生徒240人を拉致し、「奴隷として売り飛ばす」という非人道的な声明を堂々と発表して世界的に有名になりました。」
名もなきOL
「この事件、見ました。これってナイジェリアの話だったんですね。恐ろしいです。ところで、このボコ・ハラムってどういう組織なんですか?」
big5
「一言で言えばイスラム過激派で、同時期にイラク方面で暴れたISISと似たような組織です。ボコ・ハラムとは現地の言葉で「西洋式非イスラム教育の罪」という意味で、過激なイスラム原理主義を掲げて自分たちの思想に合わない集団を武力攻撃し女子供を拉致するという、まさに現代の野盗集団のような存在です。」
名もなきOL
「怖い・・・。ボコ・ハラムって今も活動しているんですか?」
big5
「今はだいぶ鎮圧されてきていますが、まだ壊滅していないようです。ナイジェリアとその周辺国が連携してボコ・ハラムと戦闘を続け、2021年に指導的立場の人物が戦死してからは、ナイジェリア軍に投降する者が増えてきています。ただ、ナイジェリア北東部を中心にボコ・ハラムの脅威は残っており、油断できない状態が続いています。」
名もなきOL
「何の宗教を信じるかは基本的に個人の自由だと思うんですけど、関係な人を悲惨なめに合わせるボコ・ハラムのやり方は本当に酷過ぎますね。一日も早く、ナイジェリアに平和が戻るのを祈るばかりです。」
big5
「さて、ナイジェリア現代史を簡単に確認したので、次は政治経済面を見ていきましょう。まずは政治面から。まず、ナイジェリアの国家形態は「連邦制」を取っており、ナイジェリア連邦の頂点に立つ役職として「大統領」を置いています。これは、形としてはアメリカ合衆国に似ていますね。独立当初は3州だけだったのですが、多民族国家という実情が反映されて、現在は36州になっています。多民族国家・ナイジェリアの中で多数派なのが、ハウサ族、イボ族、ヨルバ族の三部族です。」
名もなきOL
「多民族国家で一つの国を作るなら、連邦制がちょうどいいと思います。大統領の任期は何年なんですか?」
big5
「4年です。これもアメリカと同じです。大統領の再選については2期まで、と制限されています。今のナイジェリア大統領はムハンマド・ブハリ(英語表記 Muhammadu Buhari 以下、ブハリ)です。」
ムハンマド・ブハリ 撮影日:2015年5月29日 撮影者:Bayo Omoboriowo
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「ブハリは1942年生まれで、民族はフラニ族、宗教はイスラム教です。元々は軍人で、1983年(この年41歳)に軍事クーデターを起こして大統領となったのですが、1985年にクーデターを起こされて失脚。その後、2015年の大統領選挙で勝利し再び大統領に返り咲きし、2019年の選挙でも勝利して現在は2期目です。そういえば、来年の2023年はナイジェリア大統領選挙ですね。ナイジェリアの選挙法では再選は2期までなので、ブハリの出馬は不可能ですがどうなるでしょうか。」
名もなきOL
「1回クーデターやった後、クーデターを起こし返されて失脚し、その後大統領選挙で返り咲き、ってなんだか凄い経歴ですね。」
big5
「ブハリの政治については、後で述べますが、けっこう特徴がありますからね。
さて、次に議会について。ナイジェリア議会は上院(元老院 英語名:Senate)と下院(代議院 英語名:House of representatives)の二院制。議員定数は元老院が109席(36州×3名 + 連邦首都地域 1名 )、代議院が346席となっています。任期はいずれも4年です。」
名もなきOL
「元老院は各州3議席と等しく割り振られているんですね。連邦制らしいですね。」
big5
「1991年に首都機能をラゴスからナイジェリアのほぼ中央に位置するアブジャに移転しました。形の上では連邦制国家として整っているように見えますが、2009年の腐敗認識指数は2.5となっており、世界で130位とかなり下の方です。富裕層は石油の利権等で、庶民層では警察官が賄賂を堂々と要求するなど、政治腐敗はナイジェリアの重要課題となっていますね。
ブハリ大統領の政治も、かなり強権的です。クーデターで大統領に就任した時は、国民に対して綱紀粛正キャンペーンを実施。バス停やエレベーターに整列しない輩は鞭打ち刑、軽犯罪でも死刑を適用するなど、かなり苛烈なものでした。2006年の大統領選挙に出馬して大敗した時にも、選挙に不正があったとして結果の受け入れを拒否したり、ややバランス感覚が欠けているように感じます。2023年2月に行われた大統領選挙では、さすがに出馬はしませんでした。」
big5
「続いてナイジェリアの経済について。ナイジェリアはアフリカ1の人口を持つと同時に、経済規模もアフリカナンバー1です。IMF統計によると、2021年のGDPは約4415億ドルで世界32位(日本は4兆9374億ドルで世界3位)。その一方で、国民1人あたりGDPは約2000ドルで世界151位(日本は39,340ドルで世界28位)となっています。」
名もなきOL
「GDPに対して、国民一人当たりGDPの低さが特徴的ですね。ナイジェリア国民の大多数は貧しい生活を余儀なくされていることが想像できますね。」
データ元Global Note 様
big5
「ナイジェリア経済を支える重要産業は、なんといっても石油です。OPECにも加盟しています。ただ、MAMOR2022年9月号のナイジェリア駐在防衛官・内海2等陸佐の記事によると、精製能力には乏しいので、原油を輸出して石油製品を輸入している、という状況ということです。いわゆる「国内産業が未発達なので、付加価値の低い原材料を輸出している」という状況ということですね。
またLNG(液化天然ガス)も産出しています。ロイター通信によると、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻により、ヨーロッパ諸国はロシアから供給されているLNG危機が懸念されている中、2022年9月7日にシルバ石油資源相がミラノの会合で「来冬までに欧州へのさらに多くのLNGを供給することが可能」と発言しました。アルジェリア経由で欧州まで届くガスパイプラインを建設する総工費100億ドル超の計画が進んでいるそうです。実現するかどうかはわかりませんが、これが成功すればナイジェリアの経済的な地位の向上が期待できるでしょう。
最近になってようやくIT産業なども成長し始めており、以前のような石油一本頼みは少しずつ変化してきているようですね。主な農作物はキャッサバ、ヤムイモ、カカオ、天然ゴム、そしてゴマの栽培が盛んです。特にゴマは日本が輸入しているゴマの約35%はナイジェリア産で、輸入先第1位となっています。
ともあれ、農業や商業、製造業などの基本的な産業が安定して成長するためには、治安の維持が第一優先事項でしょう。ボコ・ハラム以外にも、活動中の武装組織はまだいますので。
ナイジェリアの首都は、先述のように国のほぼ中央に位置するアブジャですが、経済面での中心都市は今もラゴスです。黒人奴隷貿易の拠点としてポルトガル築いて依頼、世界と繋がる貿易港として発展を続け、世界でも有数のメガシティです。」
名もなきOL
「この写真を見ると、かなり発展した大都市に見えますよね。これまでのナイジェリアの話とは全然違う印象です。」
big5
「そうなんです。ラゴスのこの写真だけを見ると、シンガポールのような国の印象を受けますよね。実際、ナイジェリアに進出している外国企業のほとんどはラゴスに拠点を構えています。高層ビルなどがある反面、写真には写っていないスラム街も存在し、治安の悪さはラゴスの社会問題の一つです。また、交通渋滞(というより交通麻痺)が日常化しており、交通麻痺で動かなくなった車の運転手や乗客相手に飲食物やモノを売りに来る人々がいるなど、独特のビジネスが生じている状況です。このような問題を解決するために、政府は交通の近代化プロジェクトを進めており、中国企業が出資して鉄道を作ったりしています。」
名もなきOL
「出資が中国企業なんですね。アフリカに流れているチャイナ・マネー、の一つなんでしょうね。」
big5
「まさにそうだと思います。ナイジェリアは、アフリカを代表する国家として成長していく可能性が高い国です。経済大国である日本も、この辺りは戦略的思考に基づいて政策を打ち出していく必要があるんじゃないか、と思いますね。」
big5
「CNNによると、ナイジェリア人道問題担当当局は10月16日に、南部で発生した大洪水で200万人が被災、死者が600人超、家屋20万棟以上が一部または全体損壊した、とのことです。ナイジェリア国家緊急事態管理庁(NEMA)による分析では、雨季の降水量が特に多かったことに加え、隣国カメルーンでダムを放流したことが原因だ、言っています。ニジェール川とヌべエ川流域で壊滅的な洪水が発生するのではないか、という警告が出されました。また、JETROによると、2022年10月17日にはリバース州ボニー島にある年産2,200万トンのLNGプラント停止が発表されており、経済への影響も深刻になりそうです。」
名もなきOL
「2022年は大洪水が多いですね。ナイジェリアだけでなく、パキスタンやベネズエラでも大規模洪水が発生しています。これも地球温暖化の影響なんでしょうかね。」
big5
「ちなみに、日本政府は10月19日に林芳正外務大臣がナイジェリア外務大臣のジオフリー(Geofrrey)にお見舞いのメッセージを出しています。内容はこちらで確認できます。」
big5
「続いて、ナイジェリアの軍事について。ナイジェリアは南アフリカと並ぶ、アフリカ屈指の軍事大国、と評価されています。ナイジェリア国内においても、軍の発言力はかなり高いそうです。」
名もなきOL
「ボコ・ハラムのようなテロ組織と戦うためには、軍事に力を入れざるを得ませんよね。」
big5
「そのとおりです。ただ、それが軍事クーデターの温床にもなってしまっているのが問題点でしょうか。
ナイジェリア正規軍は合計約8万人で、内訳は陸軍62,000人(陸上自衛隊は約16万人)、海軍8,000人(海上自衛隊は約4万5000)、空軍10,000人(航空自衛隊は約4万7000)となっています。軍事予算は2015年時点で18.8億ドル(日本は2016年時点で473億ドル)です。最近は、新領域であるサイバーセキュリティや宇宙にも進出しており、防衛宇宙庁が創設されています。国連安全保障理事会でアフリカ地域の代表として非常任理事を数回務めているなど、アフリカ方面における期待が高いです。
また、治安維持に関してはナイジェリアの各州が自警団や州が編成した部隊に武器を供与することで、テロ組織への即応力としているそうです。広大な国土の治安維持しようとすると、広い範囲に部隊を薄く配置せざるを得ません。薄くなった部隊ではテロ組織に対抗できないので、展開させる範囲は選ばざるを得ないでしょう。それぞれの州が独自に軍事力を抱えているのは、ナイジェリア軍だけでは「即応力」が期待できないから、でしょうね。テロ組織が襲撃してきて国民を拉致して撤退するまでに、ナイジェリア軍が到着できない、という問題はこれまで何度も発生しています。先述の内海2等陸佐の記事にあるように、治安維持のためにはまだまだ人員も予算も不足していることがうかがえますね。」
big5
「2023年2月25日(土)、ナイジェリアで大統領選挙(議員選挙も)が行われました。その時のニュースはこちら。
2023年ナイジェリア大統領選挙
結果は4日後の3月1日(水)に発表され、与党・全進歩会議(APC)で元ラゴス州知事だったディヌブ氏が勝利しました。この結果に対し、敗れた野党側は「選挙はでっちあげ」と主張して再選挙を要求しています。報道記事によると、有権者への脅迫や投票箱の盗難などの事件が起きているそうです。また、投票率は27%程度で、1999年の民主化以来、最低の数字とのこと。ディヌブ氏は得票率36.6%で、ナイジェリアの法定要件を満たして勝利しているものの、有権者9300万人のうち10%弱の920万人から票を得たに過ぎない、ということになります。」
名もなきOL
「投票率の低さは日本もどっこいどっこいですが、有権者が脅迫されるとか、投票箱が盗まれるとか、そういうニュースは日本じゃまず聞かないですね。日本は平和に選挙ができるのでいいですね。」
big5
「ディヌブ氏は、野党にも協力を呼び掛けていますが果たしてどうなるでしょうか。今後の動向に注目です。
と、言ったところで今回はここまで。
ここまでご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」
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