Last update:2015,Dec,19


大航海時代は、ヨーロッパ世界に大きな変化をもたらしました。インド航路の発見や、アメリカ大陸の発見と征服は、ある意味「目立つ」できごとと言えます。しかし、歴史は「目立つ」できごとだけで構成されているわけではありません。このページでは、大航海時代がもたらした国際経済面での大きな変化「商業革命(Commercial Revolution)」「価格革命(Price Revolution)」について紹介します。なお、この「商業革命」と「価格革命」という言葉は、歴史用語として扱われているので、インターネットで検索するといろいろ調べることができます。

商業革命 (Commercial Revolution)


大航海時代が始まる前、ヨーロッパの国際貿易の概要は以下のようなものでした。

1.アジア産の香辛料や絹などを、イスラム商人(主にオスマン=トルコ在住)が仕入れる。
2.イタリア半島・南ドイツなどの商人がイスラム商人からアジア産香辛料・絹を仕入れる。
3.イタリア商人・南ドイツ商人らが、アジア産香辛料・絹をヨーロッパで販売する。

図で示すと下のようになります。


大航海時代以前は、イスラム商人らが仲介しなければ、アジアの物産をヨーロッパに輸入することは事実上不可能なことでした。しかし、ポルトガルがインドへの航路を発見したことにより、ヨーロッパ諸国はイスラム商人らの仲介を経ずとも、自身で直接アジアと取引することができるようになったわけです。この結果、貿易の仲介で栄えたイタリア半島や南ドイツの商業都市は少しずつ衰えていきました。モノのルートはイスラムから地中海を通るコースに代わって、大西洋・インド洋を通ってヨーロッパまで運ばれるルートが主流になってきました。また、アフリカからは金や象牙も貴重品として輸入されるようになりました。
さらに大きな変化をもたらしたのは、アメリカ大陸です。ヨーロッパ諸国のアメリカ植民地経営で労働力となったのは、アフリカからさらわれてくる黒人奴隷でした。また、アメリカ大陸からは、後述されるように大量の金・銀がヨーロッパに流入していきました。これらの商流を加えると、ヨーロッパを中心とした貿易の流れは以下のようになります。

1.ヨーロッパはアジアから香辛料や銀を仕入れ、銀をアジアに支払う。
2.ヨーロッパはアフリカから金・象牙を仕入れ、日用品などをアフリカに売る。また、アフリカから黒人奴隷をアメリカに運ぶ。
3.アメリカはアフリカから奴隷を受け入れる。また、ヨーロッパから毛織物を仕入れ、銀をヨーロッパに支払う。

図に示すと、下のようになります。


このように、大航海時代がもたらした貿易の流れの変化を「商業革命」と呼んでいます。大西洋を物流の中心とするヨーロッパ、アフリカ、アメリカ間の貿易は大西洋三角貿易などと呼ばれ、ヨーロッパ諸国(初期はポルトガル・スペイン、その後オランダ、最後はフランス・イギリス)にとって大きな利益の源泉となり、それと同時に利権をめぐって戦争の一因となっていきました。

価格革命 (Pricel Revolution)


大航海時代がもたらしたもう一つの大きな変化が、多量の銀がもたらした物価の上昇です。16世紀半ばからおよそ100年の間に、ヨーロッパの物価は3倍にまで上昇しました。スペインが征服した中南米地域には金や銀(特に銀)の鉱山が豊富で、スペイン人はインディオを酷使して金銀の採掘に励みました。また、1545年、あるインディオがボリビア南西端に位置するポトシで銀鉱を発見しました。しかし、こんな発見はしなかった方が良かったかもしれません。なぜなら、このポトシの鉱山労働で多くのインディオが酷使されることになったからです。翌年には鉱山都市ポトシ(Potosi)が建設され、採掘が始りました。1556(1572とも。詳細不明。情報求む)年に水銀製錬法が導入され、精製効率が上がり、銀の産出量は大きく上がりました。1574年以降は、ミタ制度(インディオの成人男子を7年おきに1年間鉱山労働させる制度)を実施し、労働力を確保したことも、産出量を増加させました。価格革命は

1.農産物、家畜価格の物価上昇を引き起こし、農業の資本主義化を促した。
2.実質賃金の低下により、工業・商業などで経営規模が拡大させた。
3.フッガー家など従来の商業資本が衰退し、代わりにイギリス産業資本(羊毛工業)を発展させた。

など、中世封建体制から近代資本主義体制への発展を促す一因となりました。ちなみに、ポトシ銀山は1640年頃まで高水準の産出量を誇っていましたが、以降は次第に衰退していきました。それでも、19世紀なかばまで毎年約5000ドル以上の銀を産出していたそうです。

なお、価格革命のその他の原因として、黒死病流行後の人口増加や非生産的な政府支出、課税の強化なども挙げられています。

また、近年では1973年の石油輸出機構OPECによる原油価格引き上げなどを「価格革命」と呼ぶこともあります。


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