big5
「今回のテーマは古代ギリシアの文化です。古代ギリシアは文化も豊富に残っているので、情報量がたいへん多いです。受験生は大変かもしれませんが、大人になるとその味わ深さがわかるようになります。単なる暗記作業ではもったいないので、その味わい深さを伝えられるように紹介していきたいと思います。」
名もなきOL
「古代ギリシアの文化って、具体的にどんなものなんですか?」
big5
「わかりやすいのは、形として残っている神殿建築や彫刻ですね。古代ギリシアには、彫刻の材料としてうってつけの大理石の産地が多かったんです。他には、歴史や文学、さらには演劇も発展していますね。」
名もなきOL
「へ〜、確かにオリエントの文明に比べると、分野も多岐にわたっていますね。」
big5
「はい。そのため、ヨーロッパの学者の中には「ギリシア文化がヨーロッパ文化の源流」という人もいます。といっても、ヨーロッパの多くの国は、古代ギリシアが滅んだ後、外部から侵入してきた民族の子孫が多いので、古代ギリシアが文化の源流といっても、民族的にはまったく別になるのですが・・・
それはさておき、まずは文化の時代区分から見ていきましょう。長い古代ギリシアの歴史の中で、文化に関しては前半をアルカイック期(アーカイック期、とも。日本語では「全古典期」や「古拙期」という用語も使われる)と、後半の古典期に分かれています。アルカイック期は前8世紀〜6世紀くらいで、文化の中心地はギリシア本土ではなくイオニア地方というのが特徴です。この頃は、まだアテネがそこまで強大化していませんので、全ギリシアに満遍なく広まっていたと考えられています。古典期は前5世紀〜4世紀くらいで、文化の中心地はアテネです。一般的に、古代ギリシアといって連想される文化は、だいたい古典期のものですね。というのも、やはり古典期が古代ギリシアの成熟期にあたりますし、著名な人物や著名な建築、美術は古典期に登場していますので。
というわけで、時代区分に基づいてまずはアルカイック期から見てみましょう。」
big5
「まず、アルカイック期の叙事詩(じょじし 英語はepicなど)から見ていきましょう。なんといっても、アルカイック期の叙事詩で最初に覚えておかなければならないのはホメロス(Homeros 英語綴りはHomerで読みは「ホーマー」)ですね。」
名もなきOL
「すみません、ホメロスは名前だけなら私も知っているのですが、叙事詩って何ですか?」
big5
「ね。ついでに、セットで叙情詩(じょじょうし 英語はlyric)も覚えておきましょう。後で出てきますし。叙情詩とは、詩です。特に、作者の気持ちや考えなどの内面的なものを表現したものです。
ホメロスの代表作は「イリアス」と「オデュッセイア」で、これは伝説のトロイア戦争の物語になっています。」
big5
「ホメロスはたいへん有名である一方、その生涯は謎に包まれています。生没年も不詳です。よく、盲目の詩人だったと言われていますが、それも定かではありません。一説では、ホメロスとは特定の人の名前でなく、複数存在した詩人達が「ホメロス」という架空の人物に集約された、というものもあります。
次に紹介するのはヘシオドスです。ヘシオドスも謎が多く、紀元前700年頃に生まれたと考えられていますが定かではありません。ただ、ホメロスと違って存在していたことは確実視されています。ヘシオドスは中小農民の出身で、その後兄弟とのいざこざがあって詩人としての道を歩み始めた、と考えられています。代表作は「仕事と日々」と「神統記」です。
「仕事と日々」は、まだ貴族政の時代における中小クラスの農民の生活を描き、当時を知る貴重な史料となっております。農業暦や人生訓なども言及されている他、よく知られる「パンドラの箱」の伝説も記してあります。文庫本で正味94ページ、しかも詩みたいな内容なので1ページの文字数も少なく、読むだけなら30分もあれば読めてしまいますのでオススメです。なお、私的に一番の名言は
「良妻に勝るもらいものはなく、悪妻を凌ぐほどの恐るべき災厄もない。」ですね。
『仕事と日』は別ページでも紹介していますので、こちらも是非見てみてください。
古代 文化篇 仕事と日(仕事と日々)ヘシオドス」
名もなきOL
「それ、面白いですね。男性視点の名言でしょうけど、女性視点でも
「良夫をもらうほど得難いものはなく、悪夫をもらうほど恐ろしい災厄は無い」
って言えますね(笑)」
big5
「夫婦の関係は、古代ギリシアと現代日本にも共通している部分がある、ということですよ。」
big5
「さて、ヘシオドスの「神統記」は、ギリシア神話に登場する多くの神々の系譜をまとめたものです。古代ギリシアも多神教でしたので、いろんな神様がいました。数いる神様たちをまとめたのが「神統記」ですね。神統記が出てきましたので、オリンポス12神と呼ばれる、古代ギリシアの中でも特に知名度が高い神を紹介しておきましょう。
1.ゼウス(英語名:ジュピター):主神 オリンポス山の支配者 そして相当の女好き
2.ポセイドン(英語名:ネプチューン):海神 ゼウスの兄
3.デメテル(英語名:セレス):農業神 ゼウスの姉
4.ヘラ(英語名:ジュノー):結婚の神 ゼウスの姉であり妻
5.ヘスティア(英語名:ヴェスタ):かまどの神 ゼウスの姉
6.ヘファイストス(英語名:ヴァルカン):火と鍛冶の神 ゼウスとヘラの子
7.アレス(英語名:マース):軍神
8.アフロディテ(英語名:ヴィーナス):美と愛の神 ゼウスとディオネの子であり、ヘファイストスの妻
9.アテナ(英語名:ミナーヴァ):知恵と戦争の神 ゼウスとメティスの子
10.アポロン(英語名:アポロ):太陽と芸術の神 ゼウスとレトの子
11.アルテミス(英語名:ダイアナ):月と狩猟の神 アポロンの双子の妹
12.ヘルメス(英語名:マーキュリー):交通・商業の神 ゼウスとマイアの子
以上になります。」
名もなきOL
「全員、ゼウスの血縁者なんですね。しかも、ゼウスの正妻はヘラ(しかも姉)でありながら、他の女が4人もいるなんて・・・」
big5
「実際にはもっとたくさんいます。上の12神は、あくまで有名な神々だけですので。あまり有名でない神々の中には、ゼウスと〇〇の子、となっている神はけっこういますね。まぁ、神話ですから。
重要なことは、現代でもけっこう有名な神が多いことです。海神ポセイドンとかはよく出てきます。また、それぞれの英語名も、馴染みのある神が多いと思います。それだけ、古代ギリシアの神々は現代にも引き継がれている、ということですね。」
big5
「次に、著名な叙情詩人を3人紹介します。まず最初はサッフォーです。サッフォーは女性です。サッフォーも有名な割には謎が多く、エーゲ海の島・レスボス島で前612年頃に生まれて、何人かの男兄弟がいた、ということ以外は伝説が残っているだけです。サッフォーの詩も完全な形で残っているものは少ないのですが、残されている詩は、情熱的で恋愛ものが多いです。ただ、サッフォーの詩に少女への愛を歌った詩があるため、は同性愛者というレッテルを貼られた上に、出身地のレスボス島にお気に入りの女性を集めている、という噂を立てられてレズビアンの語源にまでなってしまったという、噂が独走しすぎている人でもあります。」
名もなきOL
「そういう噂って、尾ひれがついて物凄いスピードで広がっていきますからね。」
big5
「2人目はアナクレオンです。アナクレオンも謎が多く、誕生は前582年と考えられていますが定かではありません。アナクレオンは酒と恋を讃え、機知に富んだ詩が多い、と評されています。3人目はピンダロスです。ピンダロスはオリンピック競技会に勝者を讃える詩が有名です。」
名もなきOL
「私の想像ですけど、アナクレオンは酒場とかで弾き語りしているイメージですね。お酒を讃えるくらいなんだから、相当酒好きなんでしょう。ピンダロスは、競技会の勝者を讃えるくらいだから、熱血スポーツマン系なんでしょうか。」
big5
「アナクレオンはそうかもしれません(笑)。ただ、ピンダロスはいくつか史料が残っていて、熱血スポーツマンというよりも、孤高の詩人、というタイプの人だったみたいですね。あまり人の輪に入っていかず、一人で超然としていたそうですよ。」
big5
「もう一つ、古代ギリシア文化で欠かせない要素は哲学です。現代まで続く哲学の発祥は古代ギリシアにあります。」
名もなきOL
「ソクラテスとか、超有名ですよね。」
big5
「そうですね。古代ギリシアの哲学もいくつかに分類することができます。時代区分という観点で見ると、最初に登場したのが自然界の仕組みについて考える自然哲学(Natural Philosophy)です。」
名もなきOL
「自然哲学・・なんだか難しそう。」
big5
「そんなに難しくないですよ。古代ギリシアの哲学は「自然界に存在するモノは何からできているのか?」つまり「万物の根源は何か?」を考えるところから始まりました。現代では、理科の授業で「モノは細かく分けていくと原子になる」と教育されていますが、古代ギリシア人はそんなこと知りません。なので、モノは何からできているのか?と真剣に考えました。それが自然哲学の始まりです。ここでは、3人の自然哲学者を紹介します。
自然哲学の祖とされているのが、タレスです。タレスはイオニア地方の重要都市・ミレトスの人でした。タレスは「万物の根源は水」と考えました。」
名もなきOL
「どうして水だと思ったんでしょうね?」
big5
「それはわかりません。というのも、タレス自身の著作は残念ながら残っていないので、別の記録に部分的に登場するタレスの言葉や説などから推測することしかできないんです。タレスは他にも、日食を予言したとか、ピラミッドの高さを影を使って測ったとか、いろいろな伝説が残されています。」
big5
「2人目がピタゴラスです。アルカイック期の自然哲学者の中では、おそらく一番知名度が高いでしょうね。ピタゴラスはいろいろと有名な逸話を持っていますが、自然哲学については「万物の根源は数」としています。」
名もなきOL
「数?すべてのモノは数でできている、ということですか??う〜ん・・言ってることがわからない。。」
big5
「これはなかなか難しいのですが、ピタゴラスは「数」をたいへん神秘的なものととらえていました。すべての事象には「数」が内在されており、自然界の全ては数の法則にしたがう、と考えたんです。それで、万物の根源は数、というわけですね。」
名もなきOL
「うーん、それでもやっぱりあまり納得がいきません・・」
big5
「そんなに理解できなくてもいいと思います。とりあえず、ピタゴラスは「数」に魅せられた男、と覚えておきましょう。実際、ピタゴラスは数をとことん研究して、有名な三平方の定理を発見したり、音楽の音程の違いは叩くハンマーの重さの比で決まる、という法則を発見していきます。さらには数を崇める秘密宗教組織を結成するなど、哲学者の中でもかなり変わった人でした。ただ、ピタゴラスも知名度の割には、彼自身の著作は残っておらず、全体像は謎に包まれたままです。」
big5
「最後に3人目がヘラクレイトスです。ヘラクレイトスは、「万物の根源は火」と考えました。また、残した名言として「万物は流転する」が有名です。」
名もなきOL
「「万物は流転する」っていうのはわかる気がします。平家物語でも「諸行無常の響きあり」ってありますし、私もそう感じます。でも、万物の根源が火、っていうのはどうしてそう思ったんでしょうね。」
big5
「ヘラクレイトスも、上記2人と同様に彼自身の著作がないので、他の記録に断片的にしか残っていません。これは推測ですが、例えば草を燃やして灰になり、それを土に戻して再び草が生える、というのを見たんじゃないでしょうか?つまり、草には火が内在されており、燃えると灰になるけど、土に還れば再び草が生える、ということから「根源は火」と考えたのかもしれません。」
名もなきOL
「なるほど。哲学って難しいですけど、頭の鍛錬になりますね。」
big5
「さて、ここからは古典期に入っていきます。一般にも有名な人物が登場してきますよ。まずは、古代ギリシア文化の中でもとりわけ特徴的な演劇から見ていきましょう。」
名もなきOL
「そういえば、古代エジプトとかオリエントでは「演劇」は出てきませんでしたね。」
big5
「そうなんです。演劇の文化は、古代ギリシア文化の中でもかなり特徴があります。古代ギリシアの演劇は大きく分けて、悲劇と喜劇に分類されます。ただ、この訳語は実態を表すにはちょっと不適切ですね。ギリシア悲劇は、神話や伝記を題材にとった内容になっています。悲劇というと、登場人物が悲しい運命を辿ることになる、と想像しがちですが、必ずしも「悲劇的な内容」になっているわけではありません。ギリシア喜劇は、時事問題などを取り上げて政治や社会、著名人を実名で風刺する内容です。見ていて笑ってしまうような面白おかしい劇というよりも、著名人を批判したりおちょくったりする風刺劇といった方が、実態に近いんじゃないか、と思います。」
名もなきOL
「著名人を実名で風刺する、って近代以降の話かと思っていたのですが、古代アテネでもあったんですね。さすが民主政治のアテネですね。」
big5
「演劇を上演する劇場も、たいへん先進的でした。円形劇場と呼ばれる、舞台を中心にした扇形構造になっているのが多いですね。円形劇場の遺跡は各地にあるのですが、特に有名なのは世界遺産にも指定されているエピダウロスの劇場です。」
big5
「エピダウロスというのは町の名前です。エピダウロスの劇場の収容人数は15,000人にもなり、音響効果も抜群だそうです。ちなみに、日本武道館などの収容人数は10,000人くらいなので、その規模の大きさがわかりますね。
テストなどでは、劇作家と作品名が問われることが多いです。まずは、ギリシア悲劇の3大悲劇詩人と呼ばれている人から見ていきましょう。トップバッターはアイスキュロス(前525〜前456年)です。
アイスキュロスは雄大で荘厳なセリフを得意とする作風で人気を博しました。代表作は「アガメムノン」(トロイ戦争でトロイを攻めたギリシア軍総大将)です。覚え方は
アイス崇め(アイス ⇒ アイスキュロス 崇め ⇒ あがめ ⇒アガメムノン)
です。ちなみに、アイスキュロスはペルシア戦争でマラトンの戦いに重装歩兵として従軍しています。」
名もなきOL
「「アイス崇め」って面白いですね(笑)。」
big5
「2番目はソフォクレス(前496頃〜前406年)です。余談ですが、90歳というかなりのご長寿です。代表作は「オイディプス」です。「オイディプス」は、知らないうちに自分の父を殺し、母と結婚してしまう、という話で、ギリシア悲劇の中でも最高傑作だ、という評価を受けている作品ですね。覚え方は
双方、おいで(双方:そうほう⇒ソフォクレス おいで⇒オイディプス)
です。」
名もなきOL
「確かに悲劇ですね。現代でもドラマのテーマとして出てきそうですね。」
big5
「最後の3番目は、エウリピデス(前485頃〜前406年頃)です。代表作は「メディア」です。題名にもなっている「メディア」とは、主人公の女性の名前で、メディアが旦那に裏切られて子供と一緒に捨てられたことに対し、復讐を果たすという愛憎劇です。この頃になると、ギリシア悲劇といっても、神話や伝説を描くだけでなく、現実の人間を描くことも増えてきた、という特色があります。覚え方は
you, media!(you⇒ユー⇒エウ⇒エウリピデス media⇒メディア)
です。」
big5
「演劇の最後は、喜劇作家のアリストファネス(前450頃〜前385年頃)で締めくくりましょう。アリストファネスは多くの作品が残っていますが、中でも有名なのが「女の平和」です。」
名もなきOL
「タイトルが面白そうですね。どんな内容なんですか?」
big5
「「女の平和」はペロポネソス戦争中に作られた作品なのですが、長引く戦争を終わらせるために、アテネとスパルタの女性たちが連携して「和平するまで性行為には一切応じない」という一種のストライキを行う、という作戦に出る、という話です。これに合わせて、下ネタ満載で物語が進み、しかもそのおかげで和平が実現する、という内容です。上演された当時(前411年)からけっこう人気だったそうですよ。」
名もなきOL
「凄い内容(笑) こんな劇が上演されるなんて、古代ギリシアはかなり自由なかんじだったんですね。」
big5
「そうですね。古代ギリシアでは彫刻も裸体で作られることはごく普通ですね。時が経ち、キリスト教がヨーロッパ世界を支配するようになると、このような芸術・美術は不謹慎ということで禁じられてしまいます。」
big5
「さて、古代ギリシア文化で忘れてはならないのが「歴史」という分野が誕生したとです。古代ギリシア以前にも、当然のように歴史がありますし、記録も残っているのですが、それらはあくまで「いつ、どういうことが起こった」という記録の羅列でした。これらの記録を、人類の歴史として物語風にまとめたのがヘロドトス(前485頃〜425頃)です。」
CC 表示-継承 3.0, リンク ヘロドトスの胸像 2世紀頃にローマで作られた模刻
big5
「ヘロドトスの著作はその名も「歴史(Historiai)」です。英語のHistoryの語源です。「歴史」はペルシア戦争が起こった要因とその経緯を物語としてまとめています。そのため、当時から人々にわかりやくて面白い、と好評を得ていたそうです。特に、ペルシア戦争はギリシアが強大なペルシア帝国から自国を守った戦いですので、ギリシアで人気が出るのも納得できる話です。ただ、ヘロドトスの歴史の中には、眉唾物の信憑性の無い話も記載されており、一部の歴史家からは批判もされています。それでも、ヘロドトスが「歴史」という形で記録を残したことには大きな意味があります。なので、ヘロドトスは歴史の父と呼ばれることもありますね。」
名もなきOL
「歴史って、人類の歩みですもんね。私は物語風に説明してくれる方が、面白くてわかりやすいのでありがたいです。」
big5
「もう一人、重要な歴史家がいます。トゥキディデス(前460頃〜400頃)です。ヘロドトスよりも一世代後くらいのトゥキディデスはペロポネソス戦争の歴史を描きました。著作物の名前は「歴史」とヘロドトスと同じなので、こちらは「戦史」とか「ペロポネソス戦争史」など、後世の人が別の題名を付けて、ヘロドトスの著作と区分したりしています。トゥキディデスの歴史は、ヘロドトスの歴史とは一線を画したドキュメンタリー風のもので、史料の検証と分析を行い、できるだけ真実の姿を描こうとした作品になっています。そのため、トゥキディデスは「歴史学の父」とか「科学的歴史の父」と呼ばれたりします。」
名もなきOL
「トゥキディデスさんは正確性に重きを置いたんですね。big5さんみたいなかんじだったんでしょうね。」
big5
「そう言われると、とても嬉しいです(笑)。さて、最後にもう一人、ヘロドトスやトゥキディデスと比べると知名度が下がりますが、クセノフォン(前430頃〜345頃)を紹介します。著作は「アナバシス」です。これはクセノフォン自身がアケメネス朝ペルシアで発生した後継者争いの戦いに、外国人傭兵として参加し、戦いに敗れた後、他のギリシア人傭兵と共に命懸けでギリシアまで帰った、という事実を記録したものです。クセノフォンはソクラテスの弟子の一人でもあり、他にも著作を残しています。当時を研究する上での貴重な史料になっていますね。」
big5
「さて、次は医学です。古代ギリシアでは、現代医学の源流となる医療知識も発展しました。中でも、歴史に残った有名な人物がヒポクラテス(前460頃〜375頃)です。日本では「医聖」とか「医学の父」と呼ばれることもありますね。」
big5
「ヒポクラテスは、知名度の割にはその人生は謎だらけです。伝説や逸話はいろいろあるのですが、その多くは後世の創作ではないか、とも言われています。ただ、ホメロスなどとは違って実在したことは確実視されていますね。
ヒポクラテスが讃えられている理由の一つは、医学を宗教や呪術的なものから切り離して学問とした、ことにあると言われています。古代において、人間の病気の原因は神々の祟りであったりとか、怪我の治療は迷信や呪術的なものであるのが普通だったのですが、ヒポクラテスはもっとありのままに人間と病気を観察することを始めたわけですね。」
名もなきOL
「古代では、病気になったら「○○の神が怒っているからだ。お布施をしなさい。」とか言われて、それが信じられていたんでしょうね。そこから比べれば、大きな進歩ですよね。」
big5
「そういう意味で、ヒポクラテスは「医学の父」と考えられているわけですね。ただ、古代ギリシア栄光の時代が終わり、それを引き継いだローマも没落すると、この時代の医療技術はほぼ失われてしまいます。失われた古代ギリシアの医術を復活させたのは、イスラムのイブン・シーナーになるのですが、その話はまたの機会にしましょう。」
big5
「さて、続いては彫刻と建築です。現代でも完全な形ではないにしろ、視覚的に古代ギリシアを偲ばせるものですので、わりと馴染みがあるのではないか、と思います。ギリシアは、古代から既に大理石の産地として知られていました。なので、彫刻の材料には事欠かかなかったことが、ギリシア彫刻発展の大きな要因といえるでしょう。
まず、フェイディアス(前490頃〜430頃)から見ていきましょう。フェイディアスはペリクレスと仲が良かったので、パルテノン神殿の造営の監督をした、という話が有名ですね。また、フェイディアス自身も優れた彫刻家で、パルテノン神殿の巨大なアテナ像や、オリンピアのゼウス座像を作っています。」
名もなきOL
「古代ギリシアの彫刻って、本当にレベルが高いですよね。現代の作品です、って言われても信じられちゃうくらいですよね。」
big5
「そうですね。しかも、石は紙や木材とは違って、かなり長期間残りますから、視覚的な保存能力も高いですからね。残念ながら、日本は石を用いた美術や建築はあまり発展しなかったので、紀元前のものが残っている、ということはなかなかありません。羨ましい限りです。
次に紹介するのはプラクシテレス(前390頃〜?)です。プラクシテレスも謎が多い人物なのですが、特にギリシアの女神のヌード像が秀逸だということで有名です。例えば、下の「クニドスのアフロディーテ」が代表作ですね。」
名もなきOL
「これもレベルが高いですね。女性の体の曲線美が見事に表現されていますね。」
big5
「もう一人、ミュロン(前5世紀)を紹介します。ミュロンも、謎だらけの人物ですが、代表作の「円盤投げ」がとても有名です。」
名もなきOL
「うーん、やっぱり古代ギリシアの彫刻はハイレベルですね。筋肉の表現とか、躍動感も凄いです。まさに芸術ですね。」
big5
「次に、建築を見ていきましょう。建築も、大理石を使って実に見事な神殿が建設されました。古代ギリシアの神殿は、円柱を並べて柱にしているのが特徴です。この円柱は、3つの形式に分けられています。まずは初期型であるドーリア式です。」
名もなきOL
「どの辺がドーリア式なんですか?」
big5
「円柱の頭の部分、柱頭です。屋根との接合部分ですね。ドーリア式の柱頭はほぼ四角形で、わりと単純です。よく「荘重、安定」と言われます。これは、他の様式と比べるともっとハッキリわかります。次にイオニア式を見てみましょう。」
big5
「6番の部分が柱頭ですね。ドーリア式と違って、くるっと渦巻の装飾が付いています。これがイオニア式です。また、円柱はドーリア式よりも細くて長いので、繊細で優美、と言われることが多いです。そして、最後にコリント式です。」
パブリック・ドメイン, リンク
名もなきOL
「柱頭部分がだいぶ豪華ですね。イオニア式をさらに発展させたかんじですね。」
big5
「そのとおりです。たいへん装飾的になっているのがコリント式ですね。
さて、美術関連で古代ギリシアの特徴となっているのが、壺の絵、壺絵です。壺には、描かれる対象が黒く塗られている黒絵とオレンジ色っぽく塗られている赤絵の2つがあります。これも、画像を見るのが一番ですね。」
名もなきOL
「絵もなかなか上手ですね。」
big5
「オレンジ色っぽい色は、壺の元々の色です。黒絵は、オレンジ色の壺に黒で絵を描いているわけです。赤絵は、絵描かれる対象以外を黒で塗りつぶして作ります。壺絵の様式は、最初が黒絵で次に赤絵が登場した、と考えられていますが、定かではありません。壺絵も、古代ギリシアを研究するうえで貴重な史料となっています。」
big5
「さて、ネタが豊富で長くなった古代ギリシア文化ですが、この章で最後になります。最後は、古典期の哲学です。」
名もなきOL
「やっぱり、最後は哲学なんですね。」
big5
「まず、アルカイック期から始まった自然哲学から見ていきましょう。デモクリトス(前460頃〜370頃)は画期的な理論を考えました。「万物の根源は原子である」とした、原子論を提唱したんです。」
名もなきOL
「あ、これ正解じゃないですか。凄い、古代ギリシアでもう原子の存在に言及されていたんですね!」
big5
「すべてのモノは原子という、それ以上分解できないもので構成されている、という点は現代の科学とほぼ同じですね。ただ、デモクリトスの説は当時はほとんど支持されず、それ以上発展することはありませんでした。後述するアリストテレスの四大元素説が信じられ、なんと近代にいたるまでアリストテレスの説が正とされてきました。」
名もなきOL
「あらら、残念。もし、デモクリトスさんの説が支持されていたら、科学の発展の歴史は変わっていたかもしれませんね。」
big5
「そうですね。ただ、当時の科学技術ではデモクリトスの理論を科学的に実証することはできませんので、そんなに変わらなかったかもしれません。歴史にifはないので、想像しかできませんが。
さて、次にソフィストの話をします。民主政治が発展したアテネでは、民会などで大勢の聴取に対して説得力のある演説をすることが、政治家としてとても重要な能力でした。また、意見の違う相手と議論を戦わせることも、たいへん重要な能力でした。そこで、アテネ市民の中でも富裕な人々は、子弟に弁論の力を伸ばす教育を行いました。この時、教師役として活躍した人々が「ソフィスト(知恵ある人、という意味)」と呼ばれる人々でした。ソフィストの中でも、一番有名なのがプロタゴラス(前485頃〜415頃)です。」
big5
「プロタゴラスの有名なセリフが「人間は万物の尺度」というものです。」
名もなきOL
「人間が万物の尺度・・・人間で、いろんなものを測る、ということですか?」
big5
「惜しい。それをもう二歩くらい進めると「人間は自分の尺度でモノを測る」⇒「測った結果が何かは、人によって異なる」ということになります。簡単に言えば「何が正しいかは人によって異なる」ということですね。これを「真実の主観性」と言ったりします。」
名もなきOL
「なるほど、確かにそうですね。同じ映画を見ても、どう感じるかは人によって違いますし。古代ギリシアの時代に、既にそういうことが言われていたんですね。」
big5
「ソフィスト達はこういう知識に基づいて、アテネの若者に弁論の技術を教えていたわけですね。
さて、そういう時代の中で登場したのが超有名な哲学者・ソクラテス(前469頃〜399年)です。ソクラテスの行動は、かなり特殊なものでした。自分の考えを本にして発表する、という方法ではなく、プロタゴラスのようなソフィストらに対して問答をする、という方法です。知恵者であるソフィストたちは、ソクラテスの質問に答えていくうちに、質問に答えられなくなってしまったり、自己矛盾に陥ったりしてしまいました。「知恵者」と言われたソフィストでも、知らないことはあるわけです。ソクラテスの考えの根底に流れているのは「自分は知恵者ではないが、自分が知らないということは知っている」という無知の知であり、真実について知っているというのは、ソフィストが説く「主観的な真実」ではなく、「客観的な真実」である、というわけです。」
名もなきOL
「なんとなく、ソクラテスが凄い賢い人なんだな、ということはわかってきました。」
big5
「ただ、ソクラテスのこのような行動は、当然のようにソフィストたちの怒りを買い、やがて反感を抱いたアテネ市民に訴えられて、死刑とされてしまいました。罪状は「ポリスの神々を否定し、若者を腐敗させた」というものです。」
名もなきOL
「ソクラテスのやり方が、言い負かされた人々の反感を買った、っていうのは納得できます。でも、だからといって死刑にされるのは、納得いきません。」
big5
「アテネは民主政治が発展したといってもやはり古代ですので、こういう部分の法整備はまだまだだったわけですね。
さて、次に登場するのはソクラテスの弟子の一人であるプラトン(前429頃〜347年)です。」
big5
「プラトンはアテネの名門の出でしたが、ソクラテスを師匠として哲学の世界に入りました。プラトンの考え方は非常に特徴があります。プラトンの思想の特徴はイデア論と呼ばれるものです。」
名もなきOL
「イデアって聞いた覚えが・・・えぇっと、なんでしたっけ?」
big5
「イデアというのは、永遠不変の理想的な存在のことを言います。プラトンが考えるには、この世の中に存在するモノはすべて、イデアの不完全なコピーである、というものです。人間も不完全な存在なので、イデアを感覚的にとらえることはできない、イデアをとらえるには、数学や幾何学等の問答を通して可能になる、と考えました。プラトンの著作に「国家論」というのがありますが、イデア論に基づいた国家運営のあるべき姿が説かれています。」
名もなきOL
「思い出しました。人間が不完全な存在、という部分は納得できるんですけど、イデアに近づく方法が数学とか幾何学等の問答になる、っていうのがよくわからないですね。」
big5
「哲学者になりたいわけでなければ、そこまで深くわからなくても大丈夫ですよ。あと、プラトンの重要な事績の一つがアカデミア(アカデミー)の創設です。ようするに学校ですね。プラトンのアカデミアで学んだ生徒の一人が、アリストテレス(前384年〜322年)です。」
名もなきOL
「この有名な3人の哲学者って、師匠⇒弟子、という関係で続いているんですね!それぞれ、個別に活動していたのかと思っていました。」
big5
「何も説明が無ければそう思いますよね。仕方ないです。でも、ソクラテス⇒プラトン⇒アリストテレスと師弟関係で繋がっている、と知れば面白くなってきますよね。
さて、アリストテレスですが、一言で言えば実に多才な人でした。哲学はもちろん、生物学、倫理学、政治学、物理学など様々な分野で秀逸な考察と理論を作りました。特に、これらの分野の知識を体系的にまとめて、それぞれの学問として確立されていったことが、アリストテレスの功績の大きなところです。デモクリトスのところでも出ましたが、万物の根源については四大元素説(火・空気・水・土)を唱えました。結果的には間違っていますが、これが後の時代の学問の基礎になっていますので、その影響は計り知れないです。著作も多いのですが、代表作は「政治学」や「アテナイ人の国制」があります。これらの書物で、アリストテレスが唱えた重要な考えが「中庸の徳」です。」
名もなきOL
「中庸の徳っていうと・・・中立的なものの徳、ということですか?」
big5
「当たらずしも遠からず、というところですね。例えば、アリストテレスの政治学では人間は支配する者と支配される者の2つに分けれており、どちらも相手のことがよくわからず対立してしまう、と考えています。そこで、為政者は中間の立場に立つことが必要である、というかんじですね。このような考え方は、他の分野にも及んでいますので、アリストテレスの思想の特色となっています。
アリストテレスはこのように多才で博識な人で、おそらく当時随一の知恵者だったでしょう。アリストテレスの父は、ギリシアの北にある王国・マケドニアの王に仕える侍医だったのですが、アリストテレスもマケドニアの王子の教育係に任命されました。このマケドニアの王子がギリシア世界とオリエントを軍事的に統一した大帝国を築いたアレクサンドロス大王です。古代ギリシアの時代の次は、このアレクサンドロス大王の時代になるわけですね。
さて、ここまで古代ギリシアの文化を見てきました。情報量がとても多いので、学生は「とても覚えきれない!」と思うと思います。歴史に登場する文化を単なる暗記科目ととらえてしまうと、無味乾燥な暗記作業だけの勉強になってしまいますが、それぞれのつながりやイメージ、ゴロ合わせなどを駆使すれば記憶に残りやすくなるので頑張ってください。
と、言ったところで今回はここまで。ご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」
big5
「大学入試共通テストでは、古代ギリシア文化のネタはほぼ毎年出題されています。特に、ヘロドトスの歴史については、平成31年と令和4年の追試で2回出題されています。古代史は、最初の方で習うので試験前には内容を忘れがちです。古代ギリシアについては試験前に復習しておけば、運よく出題されるかもしれません。」
平成30年度 世界史B 問題4 選択肢2
・『イリアス』(『イーリアス』)は、アラブ文学の作品である。〇か×か?
(答)×。上記の通り、古代ギリシアのホメロスの作品です。
平成31年度 世界史B 問題17 選択肢1
・ヘロドトスは、ササン朝との戦争を扱った歴史書を著した。〇か×か?
(答)×。上記の通り、ササン朝ではなくアケメネス朝です。
平成31年度 世界史B 問題30 選択肢4
・ヘシオドスが、政治を風刺する喜劇を作った。〇か×か?
(答)×。上記の通り、ヘシオドスは叙事詩人ですので喜劇は作っていません。ヘシオドスではなく、アリストファネスなら〇になります。
令和2年度 世界史B 問題4 選択肢3
・アイスキュロス・フェイディアス・エウリピデスは、三大悲劇詩人と呼ばれる。〇か×か?
(答)×。上記の通り、フィディアスではなくソフォクレスが三大悲劇詩人に数えられます。フェイディアスは、パルテノン神殿造営の監督や、アテナ像、ゼウス座像の制作者として知られています。
令和2年度追試 世界史B 問題17 選択肢4
・ソクラテスは、「万物の尺度は人間」と主張した。〇か×か?
(答)×。上記の通り、「万物の尺度は人間」と言ったのはソクラテスではなくプロタゴラスです。
令和4年度追試 世界史B 問題23 空欄エ
・一つ目の国は、ギリシアとの戦争がヘロドトスの史書の主題ともなった(エ)で・・(後略)。
空欄に入るのは「アッシリア」か「アケメネス朝」か?
(答)アケメネス朝。上記の通り、ヘロドトスの「歴史」はアケメネス朝と戦ったペルシア戦争を扱っています。
令和4年度追試 世界史B 問題24 選択肢3
・ポリュビオスは、トゥキディデス(トゥキュディデス)が史書で主題としたのと同じ戦争に言及している。〇か×か?
(答)〇。トゥキディデスが扱ったのはペロポネソス戦争です。問題文で、ポリュビオスが「(スパルタは)長年にわたってギリシアの覇権をめぐる争いを続けた末に、ようやく勝利を得たものの、それを無事に保持していたのは僅かにすぎなかった」とあるので、これもペロポネソス戦争に言及していることがわかります。
新形式ですが、ペロポネソス戦争に関する知識とトゥキディデスに関する基礎的な知識があれば解ける問題です。
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