big5
「今回のテーマは古代 文学篇と題しまして、古代ギリシアの叙事詩人・ヘシオドスが書いた「仕事と日々」を読みます。」
名もなきOL
「古代ギリシアの文化やヘシオドスについて、あまり良く知らない方はこちらの本編(古代ギリシアの文化)をまずは読んでみてくださいね。」
big5
「今回読んだのは、岩波文庫が出している、松平千秋氏が訳した「仕事と日」です。一般に、この書の日本語訳は「仕事と日々」となっています。英語では"Works and Days"です。訳の違いについて、訳者の松平氏は
『ことさら異を立てようというつもりではない。原名のヘーメライが複数であるので「日々」と訳したものであろうが、日本語で「仕事と日々」といえば、「仕事と日々の暮らし」の意に解するのが自然であり、かえって原意を曲げる恐れがある。』
としています。実際、「仕事と日々」に書かれているのは、古代ギリシアの神々への信仰と一途に農業して働くことの大切さを説いているものなので、日々の暮らしを書いたものではありません。」
big5
「この本は約200ページなのでかなり薄い方です。さらに、「仕事と日」の本文は95ページで、詩なので行数も文字数も少なく、読むだけなら30分もあれば十分な分量です。
本書では、帝政ローマのハドリアヌスの頃に書かれたであろうと推測される「ホメロスとヘシオドスの歌競べ」も収録されています。」
名もなきOL
「私も読みましたが、元々が「詩」なので、文章の意味とかがすぐにわからなかったりしました。解説と注釈は豊富なので、古代ギリシアのことをあまり知らなくても読めますが、本編のオリンポス12神は知っておいた方が頭に入ってきやすいと思います。」
big5
「こればかりは仕方ないですね。古代ギリシア語の詩を日本語訳にすれば、言葉のリズムは変わりますし、韻を踏んでいたとしても当然のように崩れますし、詩として楽しむのは難しいですね。ですが、内容についてはわかりますし、随所に登場する神々の話や人生訓は、現代日本人にも共感できる部分があると思います。
「仕事と日」は、作者であるヘシオドスが弟のペルセウスと父の遺産相続で揉めたので、ペルセウスに「まっとうに働きなさい」と説諭する内容になっています。この説諭の中に、古代ギリシアの神々の話や人生訓などが登場する、という構成になっています。
それでは「仕事と日」の主だった内容と見どころを紹介していきましょう。」
big5
「人の性格とか物事には、表と裏の二つの面がある、というのは多くの人が納得できる話だと思います。例えば「一度決めたことを最後までやり抜こうとする」という性格は、「初志貫徹で最後までやり抜く根性がある」と取れば長所ですし、「融通が利かず状況に合わせて変化がきかない」と取れば短所になります。」
名もなきOL
「私は「のんびり屋さん」とよく言われるんですけど、「ノロマ」ととったら短所ですが「落ち着ている」と取れば長所になりますもんね。」
big5
「「仕事と日」では、これを「神にも2種類ある」と説明しているのが興味深いです。多神教の古代ギリシアの世界では、様々な神様がいました。ゼウスとかポセイドンとかが有名ですが、中には人の感情や事象の神様も存在します。「仕事と日」では、「争い」の女神・エリスが登場し、エリスにも悪いエリス(戦争・抗争)と良いエリス(同業者同士の競争など)がある、と説明しています。」
名もなきOL
「面白い解釈ですね。生活のいろんなところに神様がいた、古代の人らしい考え方だと思います。」
big5
「このようなかんじで、「仕事と日」には神が何度も登場します。古代文化の特徴の一つですね。」
big5
「OLさんは「パンドラの箱」の話は知っていますか?」
名もなきOL
「はい、知ってます。パンドラの箱には悪い事がいっぱい入っていて、間違ってそれを開けてしまったら世の中に悪い事が散らばってしまった。でも、箱の底には「希望」が残っていた、っていう話ですよね。この「仕事と日」にパンドラの箱の話が出てきましたね。」
big5
「そうですね。有名なパンドラの箱の話は、古代ギリシア由来の話なんです。もっとも、「仕事と日」では箱ではなく甕(かめ)に入っていたので、パンドラの甕が正しいのですが、箱か甕かはたいした問題ではないので、ここでは「パンドラの箱」で通します。
古代ギリシアの主神はゼウスなのですが、ゼウスはかなり人間に厳しいです。パンドラの箱の発端も、そもそも怒り始めたゼウスが人間を困らせるために火を隠した、ということから始まり、悪い事を詰め込んが甕を用意して、それを神に作られた人間の女・パンドラに開けさせるという、性格が悪すぎるんじゃないか?と私個人は思いましたね。」
名もなきOL
「私もそう思いました。古代ギリシアの神話に出てくる神々って、けっこう性格に問題がある方々が多いですよね。」
big5
「性格に問題のある神々でも、人々は深く崇拝していたわけですから、実に面白いと思います。でもそれはきっと、厳しい自然や災害、古代人間社会の厳しさなど、人間の理解の範疇を超えたものに対する畏れだったんじゃないかな、と思いました。」
big5
「ヘシオドスは、弟のペルセウスに対して、堅実に農業に励め、航海などに手を出すな、航海する時は十分気をつけろ、と言っています。これはヘシオドスの私見ともとれますが、これは古代においては普通の見方だったと思います。」
名もなきOL
「と言いますと?」
big5
「古代の世界には「保険」というものがありませんでした。なので、船を使って交易するのは利益が大きい反面、船と積み荷がしずんでしまったら、利益はゼロどころか船と積み荷を失う分、マイナスになるわけですね。古代の船では、現代よりも沈没リスクはかなり高かったと思いますので、航海が博打、というのはまさにその通りだと思います。
一方の農業も、自然災害のリスクとかがあるので、いちがいに「手堅い」とは言えないと思うのですが、航海に比べれば、努力した分はそれなりに報われる仕事だったのではないか、と思います。別の言葉で言えば、農業はローリスクローリターン、航海はハイリスクハイリターン、と言ったところでしょうか。」
名もなきOL
「ただ、私が気になったのは、奴隷の使用を前提にしているところです。農業のイロハについて、奴隷を買って〜〜させるべきだ、っていう話が良く出てきました。やっぱり、古代ギリシアでは「奴隷」の存在が前提だったんだ、と改めて感じました。」
big5
「古代ギリシアに限らず、古代は全体的にそうです。そして、奴隷の使用や奴隷貿易はヨーロッパでは19世紀まで公然と行われていた(自由と革命の時代 イギリス自由主義の発展とアヘン戦争)、という事実は、知っていてほしい歴史ですね。」
big5
「「仕事と日」の後半では、ヘシオドスがペルセウスに様々な人生訓を伝えています。当時の世相を反映している教えが多いのですが、現代にも通じそうな教えもあります。私が一番納得できる教訓は
『良妻に勝るもらいものはなく、悪妻を凌ぐほどの恐るべき災厄もない』
ですね。人生のパートナー選びは本当に大事です。パートナーによっては、自分の人生が大きく変わります。いい方向にも、悪い方向にも。」
名もなきOL
「big5さん、本編でも言っていたことですね。私からも言わせてもらうと
『良夫に勝るもらいものはなく、悪夫を凌ぐほどの恐るべき災厄もない』
です。私も相手選びは慎重にしないと・・!」
big5
「時代や地域を超越した価値観や人生訓などを直接味わえるのも、古典を読む醍醐味の一つだと思います。
上述のように「仕事と日」は簡単に読める分量ですので、是非読んでみてください。」
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