Last update:2023,NOV,25

広がる世界・変わる世界

バロック美術

big5
「今回のテーマはバロック美術です。「バロック」という用語は美術だけでなく、音楽や建築でも「バロック式」という名称が使われることが多いので、みなさん一度は耳にしたことがあると思います。OLさんはバロック美術と聞いたらどんなものを連想しますか?」
名もなきOL
「バロック美術といえば・・・
そういえば前から気になっていたんですけど「バロック」ってどういう意味なんですか?」
big5
「16世紀末〜17世紀にかけてヨーロッパで流行した芸術の様式をバロック、と言います。今回は美術を取り上げますが、音楽でも「バロック音楽」という区分がありますね。
(参考:絶対主義国家と国王たちの戦い 人物篇「ヘンデル(バロック時代の音楽家)」)
「バロック(Baroque)」という用語の意味は、いくつかの説がありますが、よく言われるのはポルトガル語のbaroccoが元で「歪んだ真珠」、という説ですね。ただ、「バロック」という用語の意味をとことん考えても難しいだけなので、初学者は「そういう名前なんだ」と思っておけば不都合はないです。
バロック美術の特徴は、だいたい以下のように説明されます。
・力強く躍動感ある表現
・劇的な感情表現
・豪華絢爛、荘厳、華麗
バロック美術には有名な芸術家・作品が多いですが、例えばこのような↓絵ですね。」

Baroque Rubens Assumption-of-Virgin-3
聖母被昇天 制作者:ルーベンス  制作年:1625-26年

名もなきOL
「これはすごく立派な絵ですね。なるほど、こんなかんじの絵がバロック美術なんですね。」
big5
「それでは、バロック美術を代表する有名な芸術家とその作品を見ていきましょう。」

バロック絵画を切り開く カラヴァッジョ 1571~1610年

big5
「さて、バロック絵画の話から始めましょう。バロック絵画で巨匠と呼ばれる画家は何人かいるのですが、バロック時代の初期に活躍し、その後の画家に大きな影響を与えたのがイタリアのカラヴァッジョ(Caravaggio)です。」

Bild-Ottavio Leoni, Caravaggio
カラヴァッジョ 制作者:Ottavio Leoni  制作年:1621年

名もなきOL
「カラヴァッジョ・・・聞いたことないです。」
big5
「カラヴァッジョはとても絵がうまい画家で、写実的な人物描写が特徴です。中でも特徴的なのは、明暗対比キアロスクーロと呼ばれる技法です。明暗対比を使って有名になった、カラヴァッジョの代表作の一つがこちら↓の「マタイの召命」です。」

The Calling of Saint Matthew-Caravaggo (1599-1600)
マタイの召命 制作者:カラヴァッジョ 制作年:1599~1600年

名もなきOL
「ほんとだ、人が写真で撮ったみたいにリアルに描かれていますね。それで、なんかこう、劇的ですね。光が右の方から差し込んでいて、周囲の暗さが人物たちを引き立てています。確かに、ルネサンス時代の絵とはだいぶ違いますね。」
big5
「OLさんが感じたとおり、「マタイの召命」の一番の特徴は、明暗を上手く使って人物を引き立てていることです。一昔前のルネサンス時代にはほとんど見られない技法です。この絵が人気を博し、カラヴァッジョは一気に売れっ子画家になりました。また、カラヴァッジョの明暗対比を学びに来る若い画家が増え、明暗対比は当時の流行技法になりました。そういう意味で、カラヴァッジョはバロック絵画が花開く最初のきっかけを作った画家なんです。」
名もなきOL
「人気作家になったカラヴァッジョはその後どうなったんですか?」
big5
「いえ、この約10年後に犯罪者として追われる中で死にました。実はカラヴァッジョは、絵については天才的なスキルを持っていたのですが、人間的にはかなりヤバイ人でした。若い頃からたびたび暴力事件を起こして警察沙汰になっていたんです。挙句の果てには殺人事件を起こして逃亡。しかも、カラヴァッジョの首には懸賞金も掛けられました。逃亡生活を続けたカラヴァッジョですが、1610年にローマに戻る途中でおそらく病気にかかり、道中で倒れて死ぬ、という最期を遂げました。バロック絵画を切り開いた画家とは思えない、哀れな最期でした。
カラヴァッジョについては、美術評論家の山田五郎氏がYou tubeで解説動画をあげています。とてもわかりやすく、面白く解説しているので是非みてみてください。」



フランダースの犬にも登場したルーベンス 1577〜1640年

big5
「さて、次はネーデルラントの画家・ルーベンスです。日本では、1975年にテレビで放映されたアニメ「フランダースの犬」で、ネロ少年とパトラッシュが最後に教会で見た作品の画家としてたいへん有名ですね。」

Rubens Self-portrait 1623
ルーベンス自画像 制作者:ルーベンス 制作年:1623年

名もなきOL
「ルーベンスは私も覚えています。ネロ少年が物凄く憧れていた画家ですね。そっか、ルーベンスってバロック時代の画家だったんですね。」
big5
「絵は凄くても人間的に問題があったカラヴァッジョとは異なり、ルーベンスは多才な人物でした。画家として画家工房を経営して手広く画家商売をしながら多くの弟子を抱える一方で、八か国語を話すことができたので、外交官の仕事もしていました。作品数も多く、約2,200作品が確認されています。多作のルーベンスには名作が多く、冒頭で示した「聖母被昇天」も有名です。ですが、ここではフランダースの犬でネロ少年とパトラッシュが見ながら最期を迎えた「キリスト降架」を代表作として載せておきます。」

Peter Paul Rubens - Descent from the Cross - WGA20212
キリスト降架 制作者:ルーベンス 制作年:1612〜14年

名もなきOL
「これも凄い迫力ですね。真ん中の絵の白い人が、十字架に掛けられた後のキリストですかね?それを周りの人が十字架から下ろしているシーンでしょうか?左右の絵は何ですか?」
big5
「左の絵は聖母マリアです。お腹が膨らんでいるので、処女懐胎で妊娠したキリストがお腹にいるわけですね。右の絵は、老人は救世主の誕生を予言した預言者で、生まれたばかりのイエス・キリスト(赤ちゃん)を抱えているシーンです。この一連の絵は、ベルギーのアントワープにある教会に飾られています。この絵にも、カラヴァッジョから影響を受けた明暗対比技法が使われていますし、劇的なワンシーンをとらえた構図になっており、バロック美術の典型的な特徴を持っている絵ですね。
ルーベンスとフランダースの犬についても、美術評論家の山田五郎氏がYou tubeで、分かりやすく面白く解説していますので、是非みてみてください。」



数多くの肖像画を手掛けた ヴァン・ダイク 1599〜1641年

big5
「続きましては、ルーベンスの弟子の一人で、主に肖像画をたくさん描いたヴァン・ダイクです。代表作は、イングランド王チャールズ1世の肖像画ですね。」

Charles I of England
チャールズ1世 制作者:ヴァン・ダイク 制作年:1635年

big5
「ヴァン・ダイクはルーベンスの工房で修行した後、イタリアにも行って当時の最先端の美術に触れ、イギリスに行って宮廷画家として採用されます。そこで、チャールズ1世に気に入られて数多くの肖像画を残しました。ヴァン・ダイクの肖像画は、その後のイギリス肖像画に大きな影響を与えました。」

スペインの巨匠 ベラスケス 1599〜1660年

big5
「続きまして、スペインのバロック絵画の巨匠・ベラスケスです。ベラスケスはスペイン・バロック時代の黄金期を築いた画家と評されていて、印象派の巨匠・マネが「画家の中の画家」と呼ぶほどでした。」

Diegovelazquezselfportrait
ベラスケス自画像 制作者:ベラスケス 制作年:?

big5
「ベラスケスはスペインで生まれ、セビリヤの画家工房に入って修行しました。1623年(この年ベラスケス24歳)マドリードに旅行に行った際に、時の国王・フェリペ4世の肖像画を描いたところ、いたく気に入られて宮廷画家として採用されます。ここから約30年もの間、スペイン王家の宮廷画家として活躍を続けました。ベラスケスも多作な画家でしたが、おそらく一番有名な代表作は、晩年に描かれた「ラス・メニーナス(官女たち)」です。」

Las Meninas, by Diego Velazquez, from Prado in Google Earth
ラス・メニーナス(官女たち) 制作者:ベラスケス 制作年:1656~57年

名もなきOL
「これも凄い絵ですけど、なんか不思議な絵ですね。「官女たち」なので、真ん中の子がお姫様なのかしら?周りはそのお付きの侍女?でも、左にいる筆持ったおじさんって、もしかしてベラスケス自身ですか?」
big5
「なかなかいい所に気づきましたね。この絵は、見れば見るほど「これは何の絵なのか?」と思ってしまう構図になっています。答えは全部絵の中にありますよ。OLさんが思ったように、真ん中の女の子は国王の娘のマルガリータ王女です。周りの女性は、お付きの侍女で、左にいる筆を持ったおじさんはベラスケスです。ベラスケスは絵を描いています。彼の前に大きな板が置かれてますからね。この板に絵を描いているんです。では、何の絵を描いているのでしょうか?答えは、絵の中にあります。」
名もなきOL
「なんだろう・・・・う〜〜ん・・・真ん中らへんにもう1枚、絵がありますよね。これに何かヒントがあるのかな??」
big5
「惜しい、真ん中にあるのは絵ではなく、鏡なんです。その鏡が映しているのは国王フェリペ4世と王妃です。つまり、ベラスケスが描いているのはフェリペ4世と王妃の肖像画なんですね。この絵の視点は、鏡に映った国王夫妻が見ている風景なんです。肖像画を描くために立っている国王夫妻のところに、まだ幼い王女が入って来て、周囲の侍女が「両陛下はお絵描きの途中なので、他で遊びましょう」と諭している、そんなワンシーンを描いているんですね。」
名もなきOL
「へ〜、そんな仕掛けがこの絵にあるんですね!凄い構成力ですね。さすが、スペイン絵画の黄金期を作っただけありますね、ベラスケスさん。」
big5
「ラス・メニーナスは世界中でたいへん有名で人気の絵です。美術評論家の山田五郎氏もYou tubeで説明しているので、こちらも是非ごらんください。」



栄光から転落 レンブラント 1606〜1669年

big5
「最後に紹介するのは、オランダのレンブラントです。」

Self-portrait at 34 by Rembrandt (rectangular detail)
34歳の自画像 制作者:レンブラント 制作年:1640年

big5
「レンブラントのあだ名に「光と(影の)魔術師」というものがあります。それくらい、レンブラントは光(そして影)の表現が得意な画家でした。レンブラントは中流階級の庶民の出ですが、子供の頃から絵が上手で、画家工房に弟子入りして腕を磨きました。その頃から既に次世代を担う画家として期待されており、若い頃から名声を得ていました。そのため、お金持ちの家の娘と結婚してさらに裕福になり、レンブラントはたいへんな有名人になりました。そんなレンブラントの代表作がこちら↓の「夜警」です。」

The Nightwatch by Rembrandt - Rijksmuseum
夜警 制作者:レンブラント 制作年:1642年

名もなきOL
「あ!この絵は見たことありますね。けっこう有名な絵ですよね。これがレンブラントの代表作だったんですね。」
big5
「この絵は火縄銃手組合からの依頼で描かれたもので、組合員全員を描いた「集団肖像画」と呼ばれる種類の絵です。背景が暗いことから「夜警」と呼ばれていますが、実際には昼間の風景です。火縄銃手の組合員たちが城門を出て射撃に行くところを描いているのですが、この絵はかなり画期的な集団肖像画でした。当時、このような集団肖像画といえば、↓のような構図の絵が一般的でした。」

Michiel Jansz van Mierevelt - Anatomy lesson of Dr. Willem van der Meer
デルフトのファン・デル・メール博士の解剖講義 制作者:ミーレフェルト 制作年:1617年

big5
「人物たちはほぼ並列に並べて描かれていますよね。というのも、このような集団肖像画は、描かれる人物たちがほぼ平等に費用負担して画家に発注する、というのが普通でした。なので、描かれる人物は皆平等に扱われるのが当然なんですね。誰かが目立っていて、誰かが目立たない、というのはマズイわけです。レンブラントの夜警も、同じように依頼されて描いたものでした。ですが、「夜警」では人物たちは平等に描かれていません。中央の隊長と副隊長は目立っていますが、その他の人はやや後ろに回って目立っていません。なので、この絵は画期的であり、現代では傑作となっていますが、当時の常識外れの構図だったのでかなり問題視されました。このように、名声を得てからのレンブラントは、依頼主の希望に沿う絵と自分が描きたい絵が乖離しはじめ、自分の描きたい絵を優先したために依頼主と揉めることが多くなり、仕事の依頼が減ってしまったんです。」
名もなきOL
「その点は、ルネサンスのレオナルド・ダ・ヴィンチと似ていますね。」
big5
「「夜警」については、隊長と副隊長が気に入ったので、なんとか依頼主に受け入れてもらえましたが、これ以降、レンブラントの人生は下り坂になります。まず、お金持ちの奥さんが病気にかかってしまい、幼い子供の面倒を見る親族の女性もいなかったので、女中を雇うことにしたのですが、なんとレンブラントがこの女中を愛人にしてしまいます。」
名もなきOL
「うわ、サイテー!それで私の中でレンブラントの株は爆下がりです。」
big5
「まぁ、そう思われても仕方ないですね。それから間もなくお金持ちの奥さんが病死してしまいます。しかも、レンブラントが依頼主としばしば揉めた影響で仕事は減る一方なのに、レンブラントはウハウハだった頃に染み付いた浪費癖が治りませんでした。さらに、愛人女中を抱えているうえにさらに若い家政婦を雇ってこれも愛人にします。そのせいで、最初の愛人が発狂して暴れるようになり、裁判沙汰にもなりました。結局、最初の愛人は精神を病んで亡くなり、レンブラントは若い愛人と結婚したのですが、レンブラントの家計は火の車でした。そんな中、1652年から英蘭戦争が勃発してオランダは戦争不況に。絵の仕事はめっきり減ってしまい、レンブラントは債務超過になって財産をすべて処分することになりました。ちなみに、この時作製された財産目録の中に、日本の鎧兜もあったことが記録されています。
その後、レンブラントは絵描きの仕事もやっていましたが、かつてのような裕福で豪華な生活を取り戻すことは無く、1669年に貧しい生活の中で死去しました。栄光から転落へと、浮き沈みの激しい人生だったといえますね。
レンブラントについても、美術評論家の山田五郎氏がYou tubeで解説動画をあげていますので、ぜひこちらも見てみてください。」

名もなきOL
「カラヴァッジョは人間的に破綻してるから論外ですが、レンブラントも絵は上手いですが男としてはだらしないですね。そうなると、この中で人間的にまともだったのはルーベンスとベラスケスになるのかしら?」
big5
「ルーベンスは愛妻家だったみたいですね。晩年に奥さんを亡くした後、40歳くらい年下の若い女性を2番目の奥さんにしていますが、両方とも大事にしていた様子がうかがえます。奥さんの絵がとても多いので。ベラスケスは、意外なことにプライベートな部分の情報がほとんど無いんですよね。これは、どなたかご存じの方がいらっしゃったら教えていただけますと嬉しいです。
というわけで、バロック美術の有名な画家と代表作を紹介してきました。ここで紹介した5人は特に知名度が高い画家ですが、バロック美術はもっと幅が広くて地域差・時代差がある分野です。他にも、魅力的な絵や個性あふれる画家はたくさんいますので、機会があったら別ページで紹介したいと思います。

と、言ったところで今回はここまで。ご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」


大学入試 共通テスト 過去問

big5
「大学入試共通テストでは、バロック美術のネタは残念ながらほとんど出題されません。試験前は、他の分野の復習を優先したほうがいいでしょう。」


広がる世界・変わる世界 目次へ戻る

この解説は、管理人の趣味で作成しております。解説が役に立ったと思っていただければ、下記広告をクリックしていただくと、さらなる発展の励みになります。



参考文献・Web site