big5
「今回のテーマはエリザベス1世の治世と題しまして、エリザベス1世時代のイギリスの歴史について見ていきたいと思います。エリザベス1世は結婚しないで生涯独身を通したので、「処女王(ヴァージンクイーン "Virgin Queen")」というあだ名もあって、たいへん有名な王です。」
名もなきOL
「いろいろと結婚の話はあったのに、「私は国と結婚している」と言って断ってきた、という話を高校の先生から聞きました。今風にいうと、バリバリのキャリアウーマンっていうかんじだったんでしょうね。」
big5
「エリザベス1世がなぜ独身を通したのか?その理由については、様々な歴史学者が様々な意見を出しています。おそらく、理由は一つだけではなく複数あったのだと私は思います。歴史事件の原因がたった一つだけの事柄に起因している、ということは稀ですからね。
そんなエリザベス1世の治世の重要ポイントは以下になります。
・1559年、統一法を発布してイギリス国教会を確立。イギリスの宗教改革に決着をつけた。
・ヴァージニア植民など、北米大陸の植民地開発を推進した。
・1588年、アルマダ海戦でスペインの無敵艦隊を破る。
・1600年、東インド会社設立。
と、なります。まずは主要論点から見ていきますね。さて、まずはいつも通り年表から見ていきましょう。」
年月 | イギリスのイベント | その他のイベント |
1558年 | エリザベス1世即位 | |
1559年 | 統一法を発布し、イギリス国教会体制を確立 | |
1560年 | グレシャムの幣制改革 | (日)桶狭間の戦いで織田信長が今川義元を破る |
1568年 | 亡命してきたスコットランド女王メアリ・ステュアートを幽閉 | (蘭)オランダ独立戦争 開戦 |
1571年 | (西・土)レパントの海戦 | |
1572年 | (仏)サン・バルテルミの虐殺 | |
1580年 | (西)スペインがポルトガルを併合 | |
1581年 | (蘭)オランダ(ネーデルラント連邦共和国)が独立を宣言 | |
1582年 | (教皇庁)グレゴリウス暦を制定 (日)本能寺の変 織田信長死去 |
|
1584年 | ウォルター・ローリーのヴァージニア植民 開始 | |
1588年 | アルマダの海戦でスペイン無敵艦隊を撃破 | |
1590年 | (日)豊臣秀吉が天下統一 | |
1598年 | (仏)ナントの勅令 ユグノー戦争終結 | |
1600年 | 東インド会社設立 | (日)関ヶ原の戦い |
1601年 | エリザベス救貧法 制定 | |
1603年 | エリザベス1世死去 | |
big5
「今回の主役・エリザベス1世がイギリス女王として即位したのは1558年(この年25歳)。父はかの有名なヘンリ8世、母はヘンリ8世の離婚問題の引き金となったアン・ブーリンです。
エリザベス1世の前半生は波乱万丈でした。実父のヘンリ8世によって実母のアン・ブーリンを殺され、異母姉のメアリ1世には捕えられて幽閉されたりと、一歩間違えば命を奪われる綱渡りの人生でした。しかし、女王に即位したことで人生は大きく変わりました。まず、1559年に統一法を発布して、父・ヘンリ8世が築いたイギリス国教会体制を確立。メアリ1世のカトリック反動政策で混乱していた政治を安定させました。この点については、「広がる世界・変わる世界 イギリスの宗教改革」に詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。」
名もなきOL
「エリザベス1世によって、イギリスの宗教改革の動乱はひとまず落ち着いたわけですね。」
big5
「エリザベス1世の治世で重要ポイントは↓の2つです。
(1) 1560年:財務官グレシャムの進言を容れて、貨幣の質を向上させる。(グレシャムの幣制改革)
(2) 1584年:ウォルター・ローリーによってヴァージニア植民が始まる。
まずはグレシャムの話から。歴史よりも、経済学のグレシャムの法則 「悪貨は良貨を駆逐する」の方が有名かもしれません。」
名もなきOL
「「悪貨は良貨を駆逐する」って聞いたことあるような・・。悪い通貨が良い通貨を追い散らして幅を利かせる、ということでしたっけ?」
big5
「まぁ、だいたいそんな感じの意味です。これは経済学の話ですが、歴史にも関係するので簡単に説明しておきましょう。当時のお金は金貨とか銀貨でした。つまり、お金自体が貴金属でできていました。」
名もなきOL
「そういえば・・!今、私たちが使っているお金は金とか銀は含まれていないですね。」
big5
「例えば、1万円の金貨があったとしましょう。基本的に、1万円の金貨には1万円相当の金が含まれているべきです。そうすることで、1万円金貨が1万円の価値を持つことになります。ところが、ヘンリ8世の頃に貨幣の品質を落として一時的に財政を潤わせる、という政策が取られました。例えば、1万円金貨なのに、6000円分くらいの金しか含んでいない、品質の低い金貨、ここでいう「悪貨」を作って流通させたんです。さて、ここでOLさんに問題です。手元に2つの1万円金貨があります。1つは、きちんと1万円相当の金を含んでいる「良貨」、もう一つは6000円相当の金しか含んでいない「悪貨」です。どちらかを支払いに使うとしたら、OLさんはどちらを使いますか?」
名もなきOL
「え〜っと・・・私だったら「良貨」を手元に残して「悪貨」を支払いに回しますね。同じ1万円金貨でも、金をたくさん含んでいる「良貨」の方が価値が高いからです。」
big5
「その通りです。当時の人も、同じことを考えました。その結果、「良貨」は個人が好んで貯金に使ったり、外国の商人が好んで対価として受け取ったりしたので、イギリス国内は「悪貨」が流通し、「良貨」は国外に流出してしまう、という現象が起きてしまったんです。グレシャムはこれに気づき、イギリス国内から「良貨」が海外に流出するのを防ぐために、貨幣の質を回復させることを提案し、これが受け入れられました。「グレシャムの幣制改革」と呼ばれたりしていますね。」
big5
「続いて次のポイント、「ウォルター・ローリーのヴァージニア植民」について解説していきます。エリザベス1世の時代から、イギリスは北米大陸(現在のアメリカ)への植民活動を始めました。その先鞭をつけたのがウォルター・ローリー(Walter Ralegh)です。」
名もなきOL
「なんか、エリマキトカゲみたいですね。よく見たら、それなりに男前なかんじですが・・」
big5
「OLさんが人の顔を見たときの感想はなかなか鋭いものがありますね。ウォルター・ローリーは貴族ではなく、1ランク下のジェントリ出身です。スペインとの戦いに傭兵として参加したり、反カトリック、反スペインの立場を取ってエリザベス1世の政治を支持し、さらに長身で美男子だったことから、エリザベス1世の寵臣(お気に入り)となりました。ウォルター・ローリーの有名な逸話に以下のような話があります。
『ある日、エリザベス1世が外を歩いている時、女王の進路に泥だまりがあった。ウォルター・ローリーは自分のマントを泥だまりの上に敷いて、女王を歩かせた。当然、ウォルター・ローリーのマントは泥だらけになったら、女王の靴は汚れなかった。』」
名もなきOL
「なんかわざとらしい感じもしますけど、気が利く人なんでしょうね。」
big5
「はい。逸話の真偽はさておき、ウォルター・ローリーがどういう人だったのか、覚えるのにちょうどいい話だと思います。さて、ウォルター・ローリーはエリザベス1世から与えられた諸々の特権を利用して様々な事業に手を付けたのですが、その一つが北アメリカへの植民活動です。最初に入植を決めた場所を、「処女王(ヴァージンクイーン)」のあだ名から「ヴァージニア」と命名し、現在のアメリカ・ヴァージニア州の基となりました。
ただ、ウォルター・ローリーのヴァージニア植民は失敗に終わっています。ただ、イギリスはその後も植民に挑戦し、最終的に広大な北アメリカ植民地を築くことに成功しています。長い目で見れば、ウォルター・ローリーがイギリスの北米植民活動の先鞭をつけた、とみることができるわけですね。」
big5
「イギリス国教会体制を確立したエリザベス1世は、大陸のプロテスタントの支援も行いました。中でも重要なのがオランダ独立の支援です。」
名もなきOL
「フェリペ2世のページで出てきた話ですね。オランダ方面はカルヴァン派が多かったのに、熱烈カトリックのフェリペ2世が弾圧を始めたから、反乱を起こして戦いになったんですよね。(「フェリペ2世とスペイン全盛期」)」
big5
「その通りです。イギリス国教会もプロテスタントに大別されますし、スペインがこれ以上幅を利かせるようになるのは、イギリスにとっていい話ではありません。宗教的にも政治的にも、オランダを支援するのは理にかなった選択でしょう。しかし、これは同時にスペインとの対決も意味することになります。1588年のアルマダ海戦は、スペインがオランダ独立を支援するけしからんイギリスを討伐するための戦いだったわけですね。
結果は、ご存じの通りイギリスの勝利。スペインとフェリペ2世の野望はくじかれました。詳しくは「フェリペ2世とスペイン全盛期」をご覧ください。」
big5
「日本で関ヶ原の戦いが行われた1600年、イギリスでは世界史に大きな影響を与えることになる組織・東インド会社(East Indian Caompany : EIC)が設立されました。東インド会社は名前が示す通り、インドと東方における貿易事業を行う会社です。会社を設立したのはロンドンの商人たちですが、エリザベス1世がこれに特許状を与えたことで、ほぼ独占的に貿易事業を行うことが認められました。それと引き換えに、東インド会社はエリザベス1世に資金提供したりと、支援するわけですね。このように、大商人などに特権を与える代わりに、政治の支援などを取り付ける政策を重商主義といいます。東インド会社は、イギリス重商主義の典型的な事例ですね。」
名もなきOL
「なるほど、商人個人個人がバラバラに貿易するよりも、大きな会社組織にした方が、規模のメリットを活かしてより多くの利益を上げられるようになりますからね。それにしても、エリザベス1世の頃から「会社」ってあったんですね。「会社」って、もっと最近になってから登場したものだと思っていました。」
big5
「株式会社の起源は、だいたいこれくらいの時期なんです。大航海時代が始まり、ヨーロッパ諸国の商人が貿易事業を始めるようになるのですが、貿易事業にはかなりの元手が必要です。まず長い航海に耐えられる船が必要ですし、船を動かすための人も必要です。また、商売するなら販売する商品も必要になります。そこで、複数の商人がお金を出し合って船や積み荷を調達したり、あるいは貴族などが出資(投資)して、必要なお金を集めるようになってんですね。
東インド会社は、このような「会社」の中でも最大規模のものでした。航海の安全のために、船に大砲や銃を備えつけて「武装商船」とし、さらに時代が下って成長すると、インドを統治するために独自に軍隊を抱えるほどの組織に成長することになります。」
名もなきOL
「会社が独自の軍隊を持って外国を統治するなんて、もう既に普通の会社じゃないですね。」
big5
「エリザベス1世の頃は、東インド会社もまだ生まれたての組織なので、そんな軍事力はありません。ただ、当初からポルトガル船で砲撃戦をして積み荷を奪ったりするなど、純粋に「貿易」するのではなく、海賊みたいな荒々しい「業務」を行っていました。
と、言ったところで今回はここまで。ご清聴ありがとうございました。次回もお楽しみに!」
名もなきOL
「今日もありがとうございました。」
big5
「大学入試共通テストでは、エリザベス1世時代のネタはたまに出題されます。試験前に復習しておけば、運よく出題されるかもしれません。」
平成30年度 世界史B 問題21 選択肢A
・エリザベス1世が、審査法を制定した。〇か×か?
(答)×。エリザベス1世は審査法を制定していません。審査法が制定されたのは、チャールズ2世の治世です。おそらく「統一法」と引っかけさせようとした問題でしょう。
令和2年度追試 世界史B 問題11 選択肢C
・「15世紀イングランド」について述べた文として〇か×か?
Cスペインの無敵艦隊を破った。
(答)×。上記の通り、スペインの無敵艦隊を破ったのは1588年なので16世紀です。
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