Last update:2023,JUN,17

古代 詳細篇

古代ローマの英雄

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「さて、今回は「古代」の「詳細篇 古代ローマの英雄」いうことで、本編では省略したより深い話を紹介していくぜ!まだ本編を見ていない、っていう人はこちらの本編から見てくれよな。」
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「古代ローマは史料も多く残っていて研究もよくされているので、たいへん羨ましいですね。そして、古代から通じる人生訓なども学べるので、とても興味深いです。」

<目次>
カエサル
1.スラの評価
2.海賊退治
3.多額の借金
4.名言:賽は投げられた
5.名言:ブルータス、お前もか


カエサル

1.スラの評価

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「さて、まずは一番有名なカエサル(昔は英語読みに合わせて「シーザー」と呼ばれた)から見ていこう。最初は青年時代のカエサルを見たスラの評価からだ。元ネタはプルタルコス英雄伝だ。」
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「スラは閥族派の首領で、マリウスを首領とする平民派と激しく争い、最終的にマリウス死後に平民派をローマから駆逐した実力者です。カエサルの妻は平民派の有力者であったキンナの娘であったので、平民派の一門とみなされていました。この頃のカエサルはまだ18歳くらいの青年。老練の実力者であったスラから見れば、まだまだ青二才と呼べる若造でした。プルタルコスの英雄伝では、スラがローマの政権を握った時(前82年)の話として、こんなエピソードを書いています。

"スラは、将来に対する約束でも威嚇でもカエサルを離婚させられなかったので、嫁入り財産を没収した。スラが閑却したのを不満に思ったカエサルは、民会に出て祭祀選挙に立候補したが、スラは落選させるために手を回したうえ、暗殺を図った。ある人が「こんな若い者を殺すには及ばない」というとスラは「この少年の中に多くのマリウスが見えないのは、目がないのだ」と言った。"
※出典「プルターク英雄伝(九)」河野与一訳 岩波文庫

Bust of Sulla (Ny Carlsberg Glyptotek, Copenhagen) 1スラと考えられている胸像

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「一言でいえば、スラはカエサルはマリウスと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に有能な人物だと見ていた、ということだな。実際、カエサルは世界的に有名になるほどの事績を残しているから、スラの評価はその通りなのだが、プルタルコスはカエサルが死んだ後に生まれた人なので、評価はカエサルの人生を全部見てから行っていることになるな。」
big5
「プルタルコスの英雄伝が、この話の初出のようですので、たぶんプルタルコスが生きていたローマ帝国時代には、この話はわりと有名だったんじゃないか、と思いますね。」

2.海賊退治

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「お次はカエサルが若かった頃のエピソードとして有名な「海賊退治」の話だ。これも、出典は毎度おなじみのプルタルコスの「英雄伝」だぜ。」
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「1.スラの評価の話の後、カエサルは閥族派が逃れるためにローマを出て、アナトリア方面を旅していた時の話ですね。年代はおそらく前75年あるいは前74年とされているので、カエサル25歳くらいの話になりますね。」
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「それでは、プルタルコスの「英雄伝」の記述をまとめたものを見てみよう。

”カエサルはビチュニアからファルマクーンサ島(ミレトス付近の島)付近で、地中海を支配していた海賊に捕えられた。大艦隊と無数の輸送船を持つ海賊らは身代金として20タラントを要求したが、カエサルは「お前たちは誰を捕まえたか知らないのだ。」と嘲笑い、自ら50タラントを与えると約束した。カエサルは自分の家来を方々の町に使いに出して金を調達させる間、カエサルは最も殺伐なキリキア人の中に、ただ一人の友人と2人の供だけで残って、相手を軽蔑する態度をとり、眠るときには黙れと命じた。
38日間、監禁されているというよりも護衛されている形で過ごし、少しも臆することなく一緒に遊び体育の練習をし、詩や演説を書いて読み聞かせ、感心しない者は野蛮人と呼んで、たびたび笑いながら絞首刑にするぞ、と脅した。海賊はこのあけすけな態度を無邪気な冗談と考えていた。ミレトスから金が届き解放されると、カエサルはすぐにミレトスの港から船の用意をして海賊に向かっていき、まだ島に停泊しているところを襲って大部分を捕えた。海賊らはペルガモンで全員磔刑にされた。”

※出典「プルターク英雄伝(九)」河野与一訳 岩波文庫

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「当時、地中海では海賊がたびたび暴れていたのですが、特に残忍で恐れられていたのが東部アナトリアを根拠地にしていたキリキア海賊でした。カエサルはそのキリキア海賊に捕まったものの、少しも恐れずに対等に接し、解放されるや否やすぐに反撃に転じて海賊を捕えるた、という英雄らしいエピソードですね。」
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「この話は考えれば考えるほど疑問が湧いてくるぜ。まず、解放されたカエサルはミレトスですぐに海賊に対抗できる船団を編成して出港した、とのことだが、ローマの官職に就いているわけでもない青年カエサルに、船団を指揮する権限があったはずがない。となると、カエサル個人の財力で船団を雇ったということになるが、本当にそれだけの金があったのか、というのが疑問だな。」
big5
「プルタルコスの「英雄伝」では、金の出所まで書いてないですからね。ただ、カエサルの身代金を集める部下らしき人がいたり、海賊捕えられている間も供が2人いた、と書いてあるところを見ると、有力者に保護されていたのはほぼ確実でしょうね。敗北した平民派とはいえ、カエサルは平民派の中でもマリウスに繋がるトップクラスの一族の出だ。有力者から経済的・政治的な支援を受けていた、と考えるのが妥当なところでしょうね。」
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「そういう見方もできるな。だが、俺はこの話はほぼ作り話だと思うぜ。明確な証拠があるわけではないが、英雄に付き物の「後付けエピソード」の一つなんじゃないか、という気がするぜ。」

3.多額の借金

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「続いて、ローマの政治家となるためにカエサルが多額の借金をしていたことについて。これも出典は毎度おなじみのプルタルコスの「英雄伝」だぜ。」
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「プルタルコスの「英雄伝」の内容をまとめると、以下のようになります。」

”カエサルは借金が多かった。人の話によると、官職に就くまでに1300タラントの債務者になっていた。アッピア街道の管理者に任じられて、自分の金まで持ち出して使ったり、アエディリスになった時(前65年 35歳)に、剣闘士320組を提供した他、演劇、行列、饗宴を豪奢に支出し、前任者達の意気込みをむなしくさせた。民衆はカエサルに償いをつけさせるような新しい官職や新しい名誉を探す気持ちになった。”
※出典「プルターク英雄伝(九)」河野与一訳 岩波文庫

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「これは要するに、金をバラまいて人気取りをしていた、ということだな。金をバラまいて民衆の人気と支持を取り付けて、官職の選挙で勝とうとしているわけだ。現代だったら、公職選挙法違反で逮捕される案件だぜ。」
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「重要な官職に就く者を選挙で選んでいたローマらしいエピソードですよね。そして同時に、古今東西を問わない民衆の心理を示している、とも考えることができます。政治家になるためには民衆の支持が必要で、民衆の支持を集めるためには金がかかる、というわけですね。」
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「政治とカネは切っても切り離せない関係だからな。こればかりは人間自身に革命が起こらない限り、ずっとそうなるんじゃないかと思うぜ。」

4.名言:賽は投げられた

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「お次はカエサルの名言だ。カエサルは多くの名言を残しているが、その中でも特に有名なのが『賽は投げられた』だろうな。」
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「前49年、ポンペイウスや元老院と対立したカエサルが、軍団を解散せずにルビコン川を渡る、という決意をした時の名セリフですね。当時、軍団を解散しないでルビコン川を超えてローマに向かうことは、反逆を意味していました。さすがのカエサルも、負ければ反逆者として処刑される、という人生最大の分かれ道ではかなり悩んだようですね。」
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「この名セリフも、プルタルコスの「英雄伝」にバッチリ記録されているぜ。ただ、「英雄伝」のセリフは、一般に有名な「賽は投げられた」とはちょっと違う、というのもポイントだぜ。早速、「英雄伝」の記述を見てみよう。」

”・・・しかし結局、未来に対する思案を棄てた人のように、その後誰でも見当のつかない偶然と冒険に飛び込む者が広く口にする諺となった、あの「賽は投げることにしよう」という言葉を勢いよく吐いて、河を渡る場所に急ぎ・・・・”
※出典「プルターク英雄伝(九)」河野与一訳 岩波文庫

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「「英雄伝」では「賽は投げることにしよう」と、能動態で書かれていますね。」
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「なぜこうなったのか。考えられる理由として、有力なのは「写本制作時の間違いではないか」というものだ。くラテン語の写本を作る段階で、能動態を受動態に書き間違えた写本ができてしまい、そちらが普及してしまったので「賽は投げられた」が世界中に広まってしまったのではないか、と考えられているぜ。」
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「「賽は投げられた」に慣れてしまうと、「賽は投げることにしよう」は何だかあまりカッコよくない響きに聞こえますね。ただ、母国に反旗を翻す、という決断は受動的なモノではなく能動的なものなので「賽を投げる」と言った方が正しい、という気もしますね。」
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「その辺は個人の好みによるかもしれないな。俺は「賽は投げられた」の方が、「もう引き返すことはできない」という決意の表れ、という感じがして好きだぜ。」

5.名言:ブルータス、お前もか

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「次に取り上げるカエサルの名言は『ブルータス、お前もか』だ。前44年、カエサルの独裁をよく思わない過激派がローマの元老院議場にてカエサルを暗殺した時、暗殺者の中にカエサルが信頼していたブルータスが混じっていた頃に衝撃を受けたカエサルの最後のセリフとして有名だな。」
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「これもたいへん有名なセリフですね。「ブルータス、お前もか」のセリフが登場するのはカッシウスが200年くらいに著した『ローマ史』に登場するのですが、これまで見てきたプルタルコスの『英雄伝』には出てこないんですよね。」
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「カッシウスが何を根拠にこのセリフを持ってきたのか、気になるところだな。ただ、プルタルコスの英雄伝では、カエサル暗殺のくだりでブルータスを↓のように別格に扱って記録している。」

”・・・ある人の話によると、カエサルは他の相手に対しては身を防いであちこちと体をかわし、大声で叫んでいたが、ブルートゥスが剣をふりあげるのを見ると、顔を上衣で覆い身を投げ出して、偶然かそれとも暗殺者に押されたためか、ポンペイウスの立像の置いてある台の下に倒れた。”
※出典「プルターク英雄伝(九)」河野与一訳 岩波文庫

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「上記の「ブルートゥス」とは「ブルータス」のことです。抵抗を続けたカエサルでしたが、ブルートゥスの姿を見て、偶然かもしれないがポンペイウスの像の下に倒れた、ということですね。暗殺者の中でも、ブルートゥスだけが別格扱いになっています。ここから、「ブルータス、お前もか」というセリフが後世の歴史家に連想されて作られたんじゃないか、と思いますね。」
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「おそらくそんなところだろうな。歴史書の中で登場人物がいろいろなセリフを言う箇所があるが、たいていは後世の人が考え出したセリフなんじゃないか、と俺は思うぜ。」




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